2024年7月場所個別評価 美ノ海

 今場所は西前頭12枚目だったが10勝5敗という成績だった。連勝スタートを切ると9日目終了時点で7勝2敗であり、全勝の照ノ富士を琴櫻とともに星二つ差で追いかける展開となった。その後11日目に勝ち越しを決めると13日目は大栄翔を送り出しで破り、二桁勝利を挙げるとともに優勝争いを14日目に引き延ばした。14日目は大の里に押し出しで敗れ、優勝争いから脱落した。それでも幕内で初の二桁勝利であり、隆の勝とともに終盤の土俵を盛り上げた。

 内容に関しては得意としている左前廻しが取れていたのが好調の要因である。そして前廻しが取れなくても前に出る相撲で白星を挙げていた。また美ノ海のもう一つの持ち味が土俵際のしぶとさである。4日目の宝富士戦は左前廻しは取れず、止まっての攻防となった。その後左前廻しを取るも宝富士に極められ、前廻しが切れた。そして宝富士がすかさず前に出たところを右へ回り込んで突き落とした。持ち味を発揮した一番だった。9日目の千代翔馬戦は当たってすぐに右上手を取られ、組み止められたかに見えた。その後千代翔馬が右外掛けから寄るところを美ノ海は千代翔馬の左の廻しを切って右へ体を開いた。そして左下手投げで千代翔馬を裏返しにした。諦めずに我慢できたことが勝因である。また不利な体勢を少しずつ挽回し、逆転可能な体勢に持って行った技術も見逃せない。

 あとは「同学年対決」が話題となった。3日目の朝乃山戦は寄り切りで敗れたが、これが初顔合わせであり、取組後朝乃山は「大相撲の土俵で戦えたのは嬉しいですね」と語っていた。その朝乃山は翌日に左膝の大怪我を負ってしまうのだが・・・。13日目の大栄翔戦も同学年対決かつ初顔合わせとなった。また美ノ海は鳥取城北、大栄翔は埼玉栄出身であり、高校時代はライバル関係だった。しかし角界入り後は大栄翔に大きく水を開けられた。また美ノ海はこの時点で優勝の可能性を残しており、初の三役力士との対戦となった。相撲は大栄翔に押し込まれるも右からいなすと逆に押し返した。その後大栄翔に右からいなされて押し込まれるも左へいなして崩し、送り出した。両者がどう思っているかは分からないが、美ノ海は十両の土俵で苦労してきており、まさか大栄翔に勝てる日が来るとは思ってもいなかった。個人的にはその部分で非常に感動した一番だった。

 9月場所は自己最高位を更新し、西前頭7枚目となった。体は大きくなく、上を目指すというよりも、自分の相撲に徹するだけである。それでも幕内には定着しており、力を付けているのは確かである。気力も充実しており、引き続き無欲の姿勢で相撲に取り組むことを期待したい。