2024年3月場所個別評価 熱海富士
今場所は東前頭2枚目だったが8勝7敗で勝ち越した。前半戦は二大関を倒す活躍を見せ、4勝4敗で折り返した。そして後半戦は9日目に明生に敗れ、黒星が先行した。しかし10日目からは連勝し、13日目に勝ち越しを決めた。また終盤は星を伸ばせず、8勝で場所を終えた。
まずは二大関を破った相撲である。2日目の霧島戦は立ち合いからすぐに右を深く差され、不利な体勢となった。しかし霧島が左を巻き替えに来たところで左から小手投げを打ち、霧島のバランスを崩した。その後霧島が我慢できず右下手投げで呼び込むとそれに乗じて寄り切った。霧島の不調はあったものの、我慢しての白星は好内容だった。5日目の貴景勝戦は貴景勝の突き立ててからの引き技をこらえると右のど輪で貴景勝をのけぞらせて押し出した。どちらも稽古十分という内容であり、力を付けてきている。
その一方で脇の甘さという課題も見えた。3日目の豊昇龍戦は立ち合いから右を深く差されると懐に入られ、一方的な内容で寄り切られた。9日目の明生戦も立ち合いからすぐに右を差され、右下手投げを打たれると今度は左を巻き替えられて寄り切られた。このあたりが改善されてこないと勝ち越すことはできても二桁勝利は厳しそうである。
また大栄翔戦や阿炎戦は押し負けており、立ち合いの圧力も今後に向けては課題である。そして課題がたくさんあるものの、豊富な稽古量と足腰の良さで勝ち越したという印象である。
面白かったのが今場所は師匠の伊勢ヶ浜親方から「かん口令」が敷かれていたことである。よって場所中も口を真一文字に結び、マスコミの応対にも全く応じなかったようだ。そしてマスコミの一人が意を決して師匠に直談判すると師匠は「今は相撲に集中させたい。場所後ならいいよ」と答えたらしい。熱海富士は大のマスコミ好きであり、勘違いされたら困るということで師匠が危機感を抱いたのだと思う。3月から某CMに師匠ともども出演しており、本人が浮かれる要素がたくさんある。それに師匠が釘を刺したということである。マスコミも困るが、師匠の気持ちもよく分かるという口止めだった。
さて5月場所は西前頭筆頭あたりとなりそうである。三役昇進に向けて大事な場所となるが、同部屋で新入幕優勝を果たした尊富士がライバルとなり、負けられないところだ。また大栄翔、若元春、朝乃山の年上のライバルにどれだけ勝てるかも重要である。今場所は朝乃山にしか勝てておらず、しかも土俵際での逆転勝ちだった。三役まであと一歩のところだが、ハードルはなかなか高そうだ。しかしチャンスであることに変わりはなく、チャンスを生かすとともに更なる成長を期待したい。
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