2023年11月場所個別評価 豊昇龍

 今場所は10勝5敗という成績だった。5連勝スタートも6日目は高安に小股すくいで敗れて初黒星。8日目は錦木に敗れ、前半戦は6勝2敗で折り返した。後半戦は9日目に琴ノ若に敗れて3敗目。12日目は熱海富士に突き落としで敗れて4敗となり、優勝争いから大きく後退した。千秋楽は大栄翔を寄り切り、白星を二桁に乗せた。

 まずは物議を醸した5日目の豪ノ山戦である。相撲は押し出しで勝ったが仕切りの時に両手を下ろさず、それが約80秒続いた。結局「待った」となり、仕切り直しとなったが後味の悪さが残った。こういうことをすると相撲ファンを敵に回すことになる。昔の話だが、私は1989年11月場所の千代の富士を思い出した。5日目の寺尾戦で吊り落としで土俵に叩きつけ、その後批判を浴びた。翌6日目は両国に金星を献上すると13日目は小錦に敗れ、小錦の優勝を許した。確かに豪ノ山は三役候補であり、豪ノ山だからじらす作戦に出たというのはよく分かる。しかし既に大関であり、立場を考えると何かをするにしても別のやり方があったのではないかと思ってしまう。「大関だから手本にならないと」と審判部から言われたようである。正論ではあるが、朝青龍のおいであることを忘れてはいけない。違った形で豪ノ山戦のようなことをしなければいいのだが・・・。

 内容に関しては高安、錦木、琴ノ若といずれも馬力のある力士に負けており、馬力不足を露呈したと言える。また12日目の熱海富士戦は自ら頭でぶちかましておきながら土俵際で突き落とされた。体勢的にはどちらが大関か分からないという内容だった。ただ驚いたのが千秋楽の大栄翔戦である。立ち合いからすぐに左を差して大栄翔の突きを封じると右からおっつけ、一気に寄り切った。大栄翔に一気に押し出されることも頭にあったのでこれは少し意外だった。しかしトータルで見れば立ち合いの圧力に波があるのは事実であり、今後の課題である。

 来場所に関しては大関なので優勝もしくは優勝争いといきたいところだが、横綱に向けてとなると霧島よりも少し後ということになりそうである。何より24歳という若さが魅力である。あとは今まで通り稽古を積み重ね、大関の地位に安住しなければもう一つ上の地位が見えてくる。ただ地力がまだ足りないので更なる地力強化を期待したい。