2021年11月場所個別評価 貴景勝
今場所は12勝3敗という成績だった。前半戦は全勝で折り返した。ただ8日目の逸ノ城戦は逸ノ城に右を差され、長い相撲になった。最後は押し倒されて負けたように見えたが物言いが付いた。そして取組の途中で逸ノ城がマゲを掴んでいたと判断され、逸ノ城の反則負けとなった。内容的には負けており、命拾いをしたと言っても過言ではない。そして後半戦は10日目に明生に押し出されて初黒星となった。立ち合いから押し込むも明生に右に回り込まれ、右を差されかけた。これを嫌った貴景勝が再び離れたが明生のペースとなり、貴景勝が土俵際で引いたところをそのまま押し出した。内容は悪くなかったが明生に上手く取られたという印象である。その後は持ち直すも13日目の阿炎戦は押し出しで敗れて2敗目となった。大関として正面から受けて立ったが阿炎の勢いは止められず、内容も完敗である。14日目は正代との大関対決を制したが千秋楽は照ノ富士に勝てず、12勝で場所を終えた。
内容に関しては首の状態が少し良くなったのだと思うが、ぶちかましを交えての突き押し相撲には安定感があった。勝った相撲で唯一危なかったのは9日目の豊昇龍戦である。突きといなしで豊昇龍を押し込んだものの土俵際で右廻しを取られた。すると貴景勝は両腕で豊昇龍の右腕を抱えて左から小手投げを打ち、再び土俵際に追い詰めると最後はそのまま押し倒した。勝ったのは良かったが貴景勝は背が低く、手足も短いのでできれば廻しを取られたくないところである。廻しを取られると厳しくなるという部分を考えると12勝、13勝あたりが精一杯という感じがする。今場所は大関としての役割を十分果たしたと思うが、上を目指すとなると少し物足りなさが残るといった印象である。
さて今年の貴景勝は優勝はなく、2桁勝利が3場所の一方、休場も2場所あり、出入りの激しい1年となった。特に今場所は好成績だったものの、7月場所で痛めた首の状態は気になるところだ。来年に向けては首の回復具合がポイントとなると同時にコンスタントに今場所のような成績が挙げられるかが重要である。ただ繰り返しになるが貴景勝は突き押し一本の力士であり、突き押し力士に怪我は付き物である。また歴代の大関と比べても力量は上位だと思うが、横綱を目指す上で乗り越えなければならないハードルはかなり高いと言える。
来場所は再び大関としての役割を期待したいが、照ノ富士と力の差がついてしまったのは否めない。しかしだからこそ貴景勝には上を目指して努力してほしい。照ノ富士一強時代の到来かもしれないが、現在は一人横綱である。状況によっては貴景勝を横綱に上げても…という話が出てくるかもしれない。勿論貴景勝がそれにふさわしい成績を残せばというのが前提だが。横綱になれる可能性は低いかもしれないが、貴景勝にはその僅かな可能性がある限り、可能性を信じて頑張って欲しい。大関ではあるが、応援したくなる力士である。
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