2021年3月場所個別評価 照ノ富士

 今場所は12勝3敗で3度目の優勝を果たすと同時に大関復帰を決めた。記録に関していえば関脇以下としては史上初の3度目の賜杯である。また関脇・小結の地位で直近3場所で36勝を挙げたのは2006年1月場所の琴欧洲以来15年ぶりである。ちなみに2018年7月場所の栃ノ心は37勝を挙げているが3場所前の14勝は平幕の地位である。琴欧洲以来14人が大関に昇進しているが、直近の朝乃山と正代は33勝に届いておらず、36勝という数字がどれだけ凄いかが分かっていただけると思う。

 さて今場所に関してだが4連勝スタートも5日目に阿武咲に押し出しで敗れて初黒星。そして8日目は高安との1敗対決に敗れて2敗となり、6勝2敗で折り返した。そして後半戦は10日目に志摩ノ海に突き落としで敗れて3敗となり、大関昇進の目安となる2桁勝利に向けて少し雲行きが怪しくなってきた。しかし苦しい状況になっても気持ちを切り替えられるのが今の照ノ富士である。11日目からは連勝し、13日目からの対大関戦も全て撃破。高安が終盤に崩れたこともあり、優勝が転がり込んできた。また昇進を預かる審判部の部長は師匠の伊勢ヶ浜親方である。優勝一夜明け会見では「師匠の顔に泥を塗る形は絶対に許さないという気持ちで臨んでいました」と語っていた。つまり目安となる9勝で大関に復帰したとしても審判長が師匠だからという声が出てくる。その声を12勝という結果で封じたのは素晴らしいの一言に尽きる。師匠もホッとしていると同時に嬉しかったと思う。

 内容に関しては特に前半戦は得意の右四つに組ませてもらえず苦しんだ。負けた阿武咲戦、高安戦だけでなく明生戦と妙義龍戦も二本差される苦しい相撲だった。特に明生戦は絶体絶命の形になったが極めてこらえて土俵中央に戻し、最後は右からの小手投げでねじ伏せた。負けた相撲に関しては阿武咲戦はモロ差しを許すと体を寄せられ、抱え込むこともできず最後は押し出された。高安戦も右を差せず、逆に右を差されてモロ差しを許し、右の腰に密着されて寄り切られた。これで阿武咲戦は連敗、高安戦は4連敗である。志摩ノ海戦は攻め続けたものの志摩ノ海に回り込まれ、最後は左からの突き落としにバランスを崩して転がった。これは勝った志摩ノ海を褒めたい。その一方で大関戦は平幕相手とは違って真っ向勝負をしてくれる。3連勝したがいずれも完勝であり、現在の実力と言っていいと思う。

 さて来場所は大関復帰となるが、大関という地位でどれくらい相撲が取れるかがポイントとなりそうだ。おそらく今まで以上に関脇以下の力士のマークがきつくなると思う。ポイントは2つある。1つは右四つの相撲が取れるか。そしてもう1つは膝の回復具合である。前者に関しては最近は廻しを取れれば相撲が取れるようになっているが、やはり得意の右四つに組み止めたいところだ。上を目指すにはもう一段高いレベルが求められる。後者に関しては現時点では膝の回復具合は6割程度のようである。これが8割以上に回復し、膝のサポーターの面積が小さくなれば横綱が見えてきそうである。まずは大関復帰の場所ということで2桁勝利を挙げ、大関としての役割を果たしてほしい。そして横綱昇進の可能性は十分あると思うので更なる進化を期待したい。