2021年1月場所個別評価 明瀬山

 29場所ぶりの幕内復帰となったが9勝6敗という成績だった。初日から6連勝と好スタートを切った。しかし7日目からは5連敗。それでも本人はあまり気にしていなかったようだ。12日目からは再び連勝し、13日目に幕内では自身初めてとなる勝ち越しを決めた。そして千秋楽は勝てば敢闘賞だったが物言い取り直しの末黒星で三賞は逃した。

 内容に関しては四つに組み止める相撲で白星を挙げていた。突き押しもあるが、基本的には右で廻しを取れば力を発揮するタイプである。そしてもう一つは小兵キラーである。身長182センチ、体重183キロと体は大きいが、前さばきは上手く、懐には入れさせない。最後は組み止めて勝つことが多い。今場所も小兵の翠富士、照強には勝っている。また今場所は立ち合いの当たりが鋭く、3日目の佐田の海戦と14日目の栃ノ心戦は速攻相撲で寄り切った。そして前に出る圧力があったので土俵際の突き落としも決まっていた。千秋楽の輝戦は寄られるも執念の網打ちで取り直しに持ち込むもこれが精一杯だった。取り直しの一番は押し込まれると力なく土俵を割った。輝は最近は平幕中位~上位に定着しており、力が違ったということだと思う。

 ただ三賞を逃したとはいえ、35歳6か月で幕内初勝ち越しを決めたのは立派である。これは1957年9月場所の小野錦に次ぐ戦後2番目の年長記録である。幕内後半戦は大栄翔が上位力士を相次いで破る活躍を見せたが、前半戦は再入幕のベテランに注目が集まっていた。そして能町みね子さんが、肌が発酵前のパン生地のようであることから「パンの山」と命名していたが、色白で垂れたおなかが明瀬山のトレードマークでもある。幕下での土俵も長く、その土俵を観てきた者にとっては幕内での勝ち越しは嬉しい限りである。そして幕下以下で頑張っているベテラン力士も勇気づけられたと思う。

 あとは高齢での幕内での初勝ち越しは所属する木瀬部屋の環境も大きい。徳勝龍は去年の1月場所に33歳で幕尻優勝を果たした。志摩ノ海は十両を目前に膝の大怪我で序ノ口まで番付を下げたが現在は幕内である。宇良も同じく膝の大怪我で序二段まで番付を下げたが十両まで番付を戻してきた。元三役の常幸龍も幕下で長い間苦労したが今は十両で頑張っている。苦労している力士が身近にいるからこそ頑張れるという部分もあると思う。またそういう環境を作っている木瀬親方も素晴らしい。大相撲は番付社会で縦社会だが、部屋の中では上手く横のつながりを作っていそうである。あくまで自分の想像ではあるのだが。

 3月場所は東12枚目という番付となった。当然だが2場所連続勝ち越しを期待したい。また35歳とはいえ、気力は充実しており、体の衰えも感じない。そして個人的には今までは能力を持て余している部分もあったと思っている。ということで更なる活躍を期待したい。またベテランらしく、自分の型になるまで攻め急がない力士なので強かさにも注目したいところだ。