元横綱・曙の死去に関して 稽古場でのエピソード

 同期入門は横綱貴乃花、横綱三代目若乃花の他に大関魁皇や小結和歌乃山などがおり、そうそうたる顔ぶれだった。そして出世していくわけだが、曙を語る上で本場所の土俵以上に稽古場での出来事は欠かせない。三段目時代の1989年3月場所は、当時屈指の大部屋だった伊勢ヶ浜部屋に出稽古に出掛けた。そして1月場所で10勝を挙げ、自己最高位の前頭筆頭まで躍進した若瀬川に胸を借りた。相手が三段目と甘く見ていた若瀬川は2,3回軽く四股を踏んだだけで、仕切って待っている曙の前に立つと両手を広げて大きく胸を出した。曙は若瀬川の胸をめがけて頭から思い切りぶちかますと若瀬川は仰向けにひっくり返り、腰を痛めて病院に運ばれる羽目になった。今のように動画が出回っていれば若瀬川ももう少し警戒したかもしれない。そして初土俵から僅か1年で幕内力士を病院送りにした曙は3月場所で6勝1敗とし、翌場所は早くも幕下に昇進した。一方の若瀬川は7日目まで休場し、翌日から出場したが1勝しかできず、逆に三役の座を手中にすることはなかった。若手期待の力士だったので残念だった記憶がある。

 その後平幕時代は稽古場で当時横綱の北勝海、現在の八角理事長を羽目板まで吹っ飛ばし、北勝海は苦悶の表情を浮かべていた。本場所では北勝海が勝っていたものの、稽古場での力の違いに驚いたのは覚えている。もっともこの時点で横綱に上がるのは約束されていたのかもしれない。

続く