2020年7月場所個別評価 朝乃山

2024年5月22日

西大関 朝乃山 12勝3敗

 新大関の朝乃山は初日から力強い相撲を見せ、自身初となる中日勝ち越しを決めた。そして連勝を9まで伸ばし、新大関の初日からの9連勝は15日制以降歴代3位の記録となった。しかし10日目は関脇御嶽海に上手投げで敗れて初黒星。また10日目まで全勝だった白鵬は11日目から連敗し、13日目から休場したので12日目以降は照ノ富士との優勝争いとなった。13日目は照ノ富士との1敗相星決戦となったが寄り切りで敗れて優勝争いから一歩後退。14日目は照ノ富士が正代に敗れて並ぶも自身も結びで照強に敗れて3敗となった。そして千秋楽は照ノ富士に目の前で優勝を決められたが正代を押し出しで破り、12勝をマークした。

 内容に関しては右四つの相撲に安定感があったが本人が言っていたように後半から少しずつ崩れてきた。やはり後半戦になると相手が強くなるのでなかなか廻しを取らせてもらえない。また左上手を取り、十分な体勢になったかに見えたが照ノ富士戦のように相手が十二分になることもある。9日目の物言いがついた隠岐の海戦も左上手は取ったが相手に右下手を取られ、左をおっつけられて攻め込まれた。朝乃山は左上手を前まわしではなく、横からつかむように取りに行くので脇が開いてしまう。また師匠の高砂親方が指摘するように廻しを切る技術を持っていないので相手に下手を取られて粘られたところを上手投げで振り回すという選択肢しかなくなる。立ち合いの当たりは強くなり、押し込まれなくなってきているので今度は右四つの相撲に磨きをかけてほしい。

 負けた相撲に関しては10日目の御嶽海戦は立ち合いで左上手が取れず、逆に左上手を取られ、攻めたところを体を開いて投げられた。御嶽海が上手を取ることは滅多にないので奥の手を引き出されたというところだと思う。13日目の照ノ富士戦は右四つの攻防になったが最後は相手十分の形を許し、寄り切られた。完敗である。14日目の照強戦は足取りは警戒するべきだった。しかし前日の敗戦が尾を引きずっていたという感じである。情けないと言ってしまえばそれまでだが現状の朝乃山に精神的な強さを求めるのは酷である。ましてや両横綱と貴景勝が休場し、新大関にもかかわらず1人で背負う状況は大変だったと思う。

 師匠の高砂親方はスポーツ紙の記事を見ても目先ではなく朝乃山の相撲を冷静な目で分析すると同時に温かい目で見守っているようだ。上を目指すには技量も経験もまだまだ足りない。また朝乃山は大学相撲出身だが大学時代は主要なタイトルを獲得しておらず、その部分が正代や御嶽海、遠藤といった大学相撲出身の力士との大きな違いである。逆を言えば伸びしろがまだまだ多く残されており、大関とはいえ将来が非常に楽しみである。

 9月場所は改めて優勝を目指して欲しい。上位陣が相次いで休場しているので上を目指すという意味では今がチャンスである。能力を考えれば2場所連続優勝し、横綱に昇進する可能性は十分ある。しかしそれと同時に正攻法の真っ向勝負の相撲なので時には負けることもあると思う。7月場所でいえば照ノ富士戦や照強戦のように負けた経験を糧として少しずつ強くなっていってほしい。1年前に比べれば急速に力をつけているのだが周囲の期待が大きすぎるので技量がまだ追いついていないというのが現状である。あとは稽古と本場所の相撲で技量を高め、周囲の期待との差を埋めていってほしいというのが私の願いである。