2023年11月場所個別評価 翠富士

 今場所は西前頭5枚目だったが9勝6敗という成績だった。初日の湘南乃海戦は長い相撲となった上に物言いが付く際どい相撲となったが叩き込みで敗れて黒星スタート。しかし2日目からは5連勝し、前半戦は6勝2敗で折り返した。そして後半戦も白星を伸ばし、11日目に勝ち越しを決めた。しかしその後は上位力士との対戦もあって星が伸びず、9勝で場所を終えた。

 番付的には二桁勝ってほしかったところである。しかしそれを阻んだのが7日目の北青鵬戦である。8年ぶりの水入りとなり、トータルで6分41秒の長い相撲となったが最後は内掛けからの下手投げで勝負に行ったが上手投げを打ち返されての黒星となった。結果も残念だったがそれ以上に深刻だったのがスタミナ面である。取組後は「疲れたっすね。今日で千秋楽が終わりました。」と疲労困憊の様子だったみたいだ。またずっと廻しを掴んでいたので手が開かないと語っていた。その後も疲れは抜けてきたものの、腕の張りはなかなか取れなかったようである。いつもなら廻しを取ることも多いが、腕に力が入らないのでスピードに頼った相撲が多くなり、本来の相撲が取れなかった。千秋楽の対戦相手だった美ノ海は実績的には勝てる相手だと思うが、腕の張りが尾を引きずっての黒星のように見えた。

 素晴らしかったのは10日目の高安戦である。懐に入ろうとするも高安が徹底して突き放し、懐に入れない。結局高安に押されながら相手得意の右上手を取られ、勝負あったかに見えた。しかし左の差し手を抜き、体を離すと前に出てきた高安を左からの小手投げで転がした。高安もスピードが速いがそれ以上に翠富士のスピードが速い。また上手を取られても諦めなければ勝てることもある。やはり不利な体勢になっても諦めず、最善を尽くすことは大切である。翠富士の気持ちが伝わってきた一番でもあった。

 さて来場所は平幕上位の番付となり、三役を懸けての場所となる。また平幕上位に定着する力は既に持っており、来年は三役昇進が大きな目標となる。同部屋の若手期待の熱海富士も同じく平幕上位の番付となり、相乗効果も期待できる。やはり幕内最軽量の117キロの体重であり、勝てる時に勝っておきたいということで白星先行で後半戦を迎えたいところだ。錦木に続いて来場所は宇良が新三役となりそうであり、それに続くことを期待したい。