2023年9月場所個別評価 大栄翔

 今場所は10勝5敗という成績だった。序盤は6日目までは2勝4敗と黒星が先行した。しかし7日目からは白星を並べ、10勝4敗で千秋楽を迎えた。この時点で優勝争いのトップとは星一つ差であり、優勝の可能性を残していた。そして千秋楽は3敗で単独トップに立っていた熱海富士が敗れ4敗となったので勝てば優勝決定戦進出となるところだった。しかし貴景勝に敗れ、決定戦には進めなかった。また優勝すればという条件付きで殊勲賞を受賞することとなったが優勝を逃したので受賞とはならなかった。

 まずは先場所のことから触れたい。7月場所13日目の若元春戦で叩き込みで敗れた際に胸を強打して疲労骨折していたようだ。その影響で夏巡業を休場していたが、8月19日から復帰した。結局巡業では相撲を取る稽古はできず、番付発表後から稽古を再開したようだ。取りあえず場所初日には間に合ったという感じに見える。

 ということで序盤は黒星が増えたが体の動きも良くなく、負けて当然という内容だった。そして7日目からは連勝したものの得意の突き押しで一気に押し出すといった相撲は少なかった。一方突き落としで二番、叩き込みで二番、引き落としで一番勝っているように引き技で勝つ相撲が多かった。大栄翔はこういった引く相撲は少ないのだが、やはり怪我明けということで本調子ではなかったのだと思う。タイプは違うが貴景勝のような相撲を今場所は取っていた。また千秋楽は貴景勝に敗れ決定戦進出を逃したが、元々貴景勝とは合い口が良くなく、仕方がない部分もある。それでも二桁勝利を挙げたのはやはり地力がある証拠である。

 また驚いたのが14日目の霧島戦である。押し合いから霧島に二本差され、万事休すと思われた。しかし霧島の両腕を抱えて前に出ると腹に乗せて霧島の体を浮かせた。すると右から小手投げを打ち、霧島を転がした。これは貴景勝にも言えることだが、組まれてもその対処法を部屋で稽古しているようである。本場所で出るかは分からないが、今後も違った形での逆転勝ちがあるかもしれない。

 場所後の秋巡業では初日から相撲を取る稽古をし、調子が良さそうである。そして10月11日の秩父巡業では11月場所は「優勝目指して頑張ります」と公言した。7月場所が9勝、9月場所が10勝なので来場所は大関獲りの場所とは言えない。しかし優勝すれば実績があるので大関昇進の気運が高まる可能性は十分ある。また結果を出すこと以上に気運を高めることが大事である。そのためには結果だけでなく、審判部に大関に上げたいと思わせるような相撲を取ることが必要である。緊張することはないが、優勝すれば大関に上がれるかもしれないといった軽い気持ちで相撲を取って欲しい。実力はあり、あとは大関に上がれるかどうかという状況なので来場所ではなくてもいいので大関昇進のチャンスを掴みたい。