遅れて来た大物! 若元春 先代師匠の紹介

 師匠に関してはまずは先代の荒汐親方から紹介したい。新潟県出身で時津風部屋所属であり、最高位は小結だった。三役までは上がったものの地味な力士であり、力士としての印象はあまり残っていないというのが正直なところである。引退後は年寄・荒汐を襲名し、時津風部屋付きの親方として後進の指導に当たった。

 その後2002年6月、師匠の時津風親方の定年直前に分家独立し、荒汐部屋を創設した。そして師匠としては蒼国来、若隆景、若元春、荒篤山と4人の関取を育てた。

 何よりも素晴らしいのはその人柄である。2011年の大相撲八百長問題で部屋の蒼国来が関与したと認められたと報道があった。師匠ともども関与を否定したものの協会から引退勧告を受け、引退届を提出しなかったので更に重い解雇処分となった。それでも師匠は蒼国来を信じ、部屋で生活させた。結局裁判の末2013年3月25日、東京地裁は「解雇無効」の判決を出した。そして相撲協会も勝ち目はないと思い、控訴を断念した。他の八百長に関わったとされる力士を持つ師匠が適当なところで縁を切る中、唯一弟子を守った師匠といっていいと思う。当然ながら裁判中は協会の理事室に再三呼ばれ、蒼国来を部屋から立ち退かせるように警告されたようだ。結局協会との板挟みに「迷惑をかけてはいけない」と蒼国来は友人宅などを転々としたのだが。

 もう一つは2020年3月26日付で蒼国来が現役を引退して9代荒汐を襲名すると同時に退職したことである。定年後は再雇用制度で5年間協会に在職できるがその道を選ばなかった。今は定年になっても再雇用制度で協会に残る親方がほとんどであり、それが原因で親方になりたくても株がないといった事態になっている。本来なら後進に道を譲るべきなのだが…。その点で蒼国来に後を託し、自らは協会に残らないという選択は素晴らしい判断だったと言える。

続く