2023年1月場所個別評価 豊昇龍

 今場所は8勝7敗で勝ち越した。4連勝スタートとなったが5日目からは連敗し、6勝2敗で前半戦を折り返した。そして後半戦は9日目に若元春に掬い投げで敗れた際に左足首を痛め、休場を余儀なくされた。そして10日目の霧馬山戦は不戦敗となった。しかし不戦敗の翌日に再出場を敢行。錦富士を寄り切りで破り、7勝目を挙げた。不戦敗の翌日を白星で飾ったのは2021年9月場所の剣翔以来だが、戦後で僅か数例しかない。痛み止めを打っての出場であり、執念の白星だった。しかし翌日からは3連敗。簡単に勝ち越せるほど甘くはない。そして千秋楽は勝てば敢闘賞受賞の阿武咲との対戦だった。相撲は一方的に押し込まれた後叩かれて土俵に落とされた。負けたかに見えたが物言いが付き、協議の結果阿武咲にマゲつかみがあり、行司差し違いで阿武咲の反則負けとなった。これで勝ち越しとなり、大きな8勝目となった。内容はともかく、執念で勝ち越しに結び付けた。全ては豊昇龍が諦めなかった結果である。

 内容に関しては良かった部分と悪かった部分が両極端となって表れたといった感じである。良かった部分は立ち合いの当たりが鋭くなった点である。初日の翔猿戦は張り差しから相手に何もさせず一気に寄り切った。また4日目の玉鷲戦は相手の鋭い当たりを正面から受け止めると最後は二本差して寄り切った。こういった相撲がコンスタントに取れるようになれば大関昇進が見えてくる。前半戦は力強い内容の相撲が多く、地力が付いてきた印象が強い。一方悪かった部分は二つある。一つは8日目の佐田の海戦である。立ち合いで右に変化して送り倒したが、これは批判されても仕方がない。しかも先場所も佐田の海相手に変化で勝っている。2場所続けての注文相撲である。佐田の海は平幕力士であり、本来なら受けなければいけない立場である。また元大関琴風の尾車親方が指摘していたように楽をして勝っているように見える。こういった相撲を覚えてしまうと、必ずどこかでつまずく原因になると親方はコラムで語っていた。そしてその翌日である。もう一つは9日目の若元春戦である。若元春に左を差され、苦し紛れの小手投げに行ったものの掬い投げで敗れ、その際に左足首を痛めた。元横綱白鵬の宮城野親方は、豊昇龍はさまざまな相撲が取れるが、形もできていないのに、いろいろやろうとしてはいけないと指摘している。親方自身も左足首を怪我してから、前へ出る大切さを知り、相撲のスタイルを変えていったようだ。この怪我を今後にどう生かしていくかが将来を大きく左右することになりそうな気がする。

 場所後の大相撲トーナメントでは準優勝しており、左足首に関してはだいぶ良くなったと語っていた。3月場所の出場に関しては現時点では問題なさそうである。

 来場所は左足首の回復次第となりそうだが、まずは二桁勝利を目指したい。また三役に昇進して7場所目であり、貴景勝が横綱に昇進した場合は大関不在となるので若隆景同様、大関に引き上げられる可能性がある。課題はたくさんあるものの、力を付けてきているのは確かである。体重も140キロを超え、押されにくくなってきた。あとは宮城野親方が言っていたように、もう少し前に出る意識をもって相撲を取って欲しい。大関や横綱といった地位は後からついてくるものであり、更なる意識の向上を私としては期待したい。