2025年5月場所個別評価 大の里
今場所は綱取り場所だったが14勝1敗で2場所連続4度目の優勝を果たすと同時に場所後に横綱に昇進した。本人が常々「序盤の入りが大事」と語るように序盤を無難に乗り切ると中盤からは勢いに乗った。前半戦を単独トップの全勝で折り返すと後半戦も白星を伸ばした。そして12日目終了時点で後続と星3つ差をつけた。翌13日目は勝てば優勝だったが琴櫻を寄り切りで破り、連覇を果たすと同時に横綱も引き寄せた。千秋楽は勝てば初の全勝優勝だったが豊昇龍に敗れ、全勝とはいかなかった。それでも他を圧倒しての14勝は立派の一言である。
内容に関しては出足を生かしての右差しの相撲と押し相撲で白星を挙げていた。また先場所は優勝はしたものの逆転優勝であり、反省すべき相撲内容も見られた。しかし本人がそのことを自覚し、本場所に向けて精力的に稽古に取り組んできた。場所全体を通して感じたことは左の使い方が上手くなったことである。以前は右を差せるかどうかだけであり、左はほとんど使えていなかった。しかし最近はおっつけを身に付けた。また持ち上げるようなおっつけであり、独特のものである。そして左から攻められるようになったことで右も差せるようになった印象がある。また左からの攻めで相撲に安定感が出てきた。
最大のハイライトはやはり11日目の若隆景戦である。モロ手突きで攻めるも若隆景にまずは右を差された。その後大の里の右と若隆景の左の差し手争いとなったが若隆景に左からおっつけられながら差され、両差しを許した。ピンチに陥ったが寄られた際に肩越しに右上手を取った。そして最後は若隆景の投げをこらえつつ体を寄せ、預けるようにして寄り倒した。
この一番に関して思い出されるのが2024年11月場所10日目の大栄翔戦である。相撲は大の里がモロ手突きで大栄翔を一気に土俵際まで押し込んだ。しかし腰の位置が高く、残されると同時に左を深く差され、右も差された。また大の里は左を差された際に肩越しに右上手を取った。その後動きが止まったが、大の里は右上手を取ったまま何もできなかった。そして大の里が右上手を離したと同時に大栄翔に前に出られ、寄り切られた。右上手を取っても何もできないことを露呈した。
おそらくこの相撲の反省があったからだと思う。場所前は右を差せなかった時の右上手の稽古に取り組んできたようである。そして早速その成果を見せた。確かに師匠が言うように右を差されるのは良くない。しかし右上手からでも相撲が取れることを示したことは今後に向けて非常に大きい。逆に対戦相手は大の里攻略のハードルが更に高くなったと言える。
来場所は横綱として迎えるが、3連覇を期待したい。相撲が上手くなっているとはいえまだまだ粗削りであり、お世辞にも完成した力士とは言えない。逆を言えば伸びしろが残っており、完成した時は今場所以上に末恐ろしい存在となるはずである。あとは相手との戦いというよりも自分自身との戦いとなりそうだ。
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