2021年9月場所個別評価 貴景勝

 今場所は4度目のカド番となったが8勝7敗で勝ち越した。3連敗スタートとなり、私はこの時点でカド番脱出は無理だと思っていた。その後連勝するも6日目は玉鷲に敗れて4敗となり、カド番脱出に向けて更に苦しい星勘定となった。しかし7日目以降は難敵相手に連勝し、白星を重ねた。そして12日目は宝富士を押し出しで破り、見事にカド番を脱出した。13日目以降は3連敗したが、さすがに星を上積みできるだけの力は残っていなかった。しかし今回のカド番は7月場所の逸ノ城戦で首を痛めてのものであり、一部では休場もささやかれていたほどである。また初日から3連敗した後にカド番を脱出したのは史上初めてである。改めて貴景勝の精神力の強さを見せつけられた思いである。繰り返しになるが、普通に考えればカド番に追い込まれた上に初日から3連敗すれば本人も落ち込むだろうし、観ている方も厳しいと思ってしまう。

 そして貴景勝は言い訳は一切しない。その姿は埼玉栄高校の先輩である武隈親方の元大関豪栄道と重なる部分がある。豪栄道は名大関とまでは言えないが、怪我の事は一切言わず、何度もカド番を乗り越えた。その結果歴代10位の大関在位33場所を務めた。また豪栄道は高校の先輩というだけでなく、貴景勝の大関昇進を阻んだ力士でもある。貴景勝も豪栄道から大関の地位の重さを無意識のうちに学んでいるのかもしれない。

 いずれにしても今場所貴景勝がカド番を脱出できなければ11月場所は1横綱1大関という事態になっていた。おそらく協会幹部もホッと胸をなでおろしていると思う。確かに大関としての成績が物足りないのは事実である。しかし弱みを見せず、必死になって相撲を取り、大関の地位を守ったのは私は評価したい。

 さて内容に関しては序盤は立ち合いの当たりが弱く、引いたところを押し出されるといった感じだった。突き押しの力士にとっては最悪の流れである。そして個人的には4日目からの連勝が大きかったと思っている。対戦相手は豊昇龍、琴ノ若であり、豊昇龍は2度目、琴ノ若は初顔だった。2人共に貴景勝の強さを肌では分かっておらず、その意味では貴景勝は相撲が取りやすかったのではないかと推測している。4敗目を喫した後は立ち合いから当たれるようになり、本来の相撲が取れるようになってきた。また押し相撲ということでリズムに乗ったのもあったと思う。

 来場所は更なる前進を期待したいところだが、花田虎上さんが指摘したように休場して首の治療に専念するのも手かもしれない。ただこれまでの貴景勝を観た限りではそういった考え方をする力士ではない。今できることを精一杯取り組むタイプの力士である。ともかく首の治療が大事なのは確かである。おそらくすぐに完治することはないと思うのでしばらくは苦しい土俵が続きそうだ。