2021年3月場所個別評価 白鵬

 今場所は2勝1敗12休という成績に終わった。初日の相手は前場所の覇者の大栄翔だったが鋭く踏み込んで右で張った後左を差し、右はおっつけて一気に前に出て寄り倒した。快勝にも見えたがスローで見ると大栄翔も右から突き落としを見せており、体勢は微妙に見えた。とはいえ一気に前に出る相撲を選択し、白星をもぎ取ったあたりはさすがである。2日目の宝富士戦は左手を出す立ち合いで機先を制してから右四つに組み止めた。しかし上手が取れない上に前にも出られない。結局宝富士がおっつけて前に出たところを左からの小手投げで転がした。しかし投げを打った際に古傷の右膝を痛め、翌日から休場した。

 1月場所は新型コロナウイルスに感染したため全休し、千秋楽翌日の1月25日には稽古場に降りたようだが、31日に右膝に違和感を訴えていたらしい。結局右膝の裏に水がたまっていることが分かり、2月1日に水を抜いたものの、その後もなかなか水が引かず、すぐにたまってきては抜くことの繰り返しだったようである。万全とは程遠い状況の中、横綱としての責任を果たしたいという気持ちだけで土俵に上がったみたいだ。序盤をうまく乗り切り、炎症がおさまってくれればという期待があったようだが、悪化させてドクターストップがかかり、休場となった。手術の決断は早く、場所6日目の3月19日に内視鏡を使って手術した。本人は全治2か月ということで5月場所は休場し、7月場所に進退を懸けることを明言した。そして千秋楽翌日の横綱審議委員会も「注意」の措置を継続し、7月場所の結果を見て判断するということになった。

 優勝回数44回の実績があるとはいえ、右膝は去年の8月にも手術しており、かなり厳しい状況に追い込まれたと言える。右膝を回復させることは当然として、右膝の周囲の筋肉を回復させることはできるのか?。また連続休場による体力低下もカバーできるのか?。ここ数年の白鵬は反射神経の良さに活路を見出してきたが、それも筋力が回復し、スタミナがあってこそ発揮できるものである。結果を残した上で15日間土俵を務められるのか?。私は普通に考えれば難しいと思う。ただ鶴竜が引退し、1人横綱になった上、白鵬に代わる若手力士が育っていない現状がある。今のままでは仮に白鵬が引退すれば数場所は横綱不在ということになりそうだ。口には出せないが横審も協会幹部もそれは避けたいと考えていると思う。あとはその時の成り行き次第といったところだ。

 年齢も36歳であり、筋力の回復が遅れてきておかしくない。あとは復帰するであろう7月場所に向けて最善を尽くすだけである。ファンの立場とすればそれを見守るしかない。あとは鶴竜のように引退勧告を出される前に自ら身を処してほしい。復活を期待している一方、横綱は他のスポーツ以上に責任ある立場である。既に日本に帰化しており、親方になれる資格も持っているので相撲を取れる体力が回復しなければ相撲を取らずに引退でもいいと私は思っている。今後の動向に注目したい。