2024年3月場所個別評価 尊富士

 今場所は東前頭17枚目であり、年6場所制以降では最速タイの前相撲から所要9場所での新入幕となった。そして13勝2敗の成績で新入幕優勝を果たすと同時に史上6人目となる三賞総ナメとなった。初日から白星を並べると8日目に勝ち越しを決め、単独トップとなった。そして後半戦は10日目は1敗の大の里との直接対決を制し、2位に星二つ差をつけ、新入幕優勝の可能性が高くなった。また翌日は琴ノ若に勝ち、新入幕では元横綱大鵬以来64年ぶりとなる初日からの11連勝を果たした。12日目は豊昇龍に敗れ、連勝記録は11でストップした。その後14日目は勝てば優勝だったが朝乃山に寄り切りで敗れ、土俵下に落ちた際に右足首を痛めた。車椅子で運ばれ、千秋楽の出場が危ぶまれたが痛み止めの注射を打ち、出場を決断した。そして相撲は豪ノ山を押し倒しで破り、歴史に残る快挙を達成した。

 内容に関しては出足を活かした速攻相撲で白星を挙げていたというのは十両優勝を果たした先場所と同じである。しかし違うのは対戦相手である。幕内力士なので先場所のように一気に持って行ける訳がない。本人もそれを自覚しており、前に出るにしても少しだけ慎重になっていた。しかし前に出られると分かれば一気に出て勝負を付けていた。

 私は初優勝の要因の一つは間隔ができた後の対応力だと思っている。先場所は一気に運べたので対応力自体必要がなかった。対応力に関しては二つある。一つは「戻りの速さ」である。すぐに体勢を立て直して二の矢、三の矢を繰り出せる。そしてもう一つは判断力である。廻しを取るかどうか、また押すかどうかの判断力が絶妙であり、非常に上手かった。大抵の力士が判断を誤った攻めで逆転負けを食うが、それがほとんどなかった。強いて挙げれば12日目の豊昇龍戦くらいである。また対応力の高さという奥にしまっていた引き出しを見せたことで幕内力士が対応できなくなったというのが本当のところではないだろうか。

 その部分で11日目の琴ノ若戦は見事だった。琴ノ若に出足を止められたが下がりながら右へいなして体勢を立て直した。その後琴ノ若のもろ手で脇が空いた隙を見逃さず、右を差して寄り切った。下がって相手の力を逃すと同時に反撃する形を作った。三賞の中でも技能賞に相応しい相撲内容だった。

 さて場所後は春巡業は休場した。そして5月1日に地元の青森県五所川原市で凱旋パレードが行われた。またマスコミの取材に応じたが稽古はまだ再開できていないものの、四股は踏んでいるようである。まだ出場するかは決めておらず、直前まで様子を見ることとなりそうだ。私的には思ったほど状態は悪くないように見える。

 5月場所は東前頭6枚目となった。怪我さえなければ大の里のように再度の快進撃が見込めるところである。しかし靭帯を伸ばしており、少なくとも完調でないことは確かである。それでも初日から休場すれば十両に逆戻りとなるので個人的には出場するものと見ている。そして勝ち越せなくても何番か勝てれば幕内の地位は守れる。普通に考えれば優勝した代償を数場所かけて払うことになる。しかし優勝にはそれだけの価値があり、出場した判断は間違っていなかったと私は思っている。

 今後に向けては速攻相撲は魅力的だが、両膝に爆弾を抱えているのも事実であり、もう少し様子を見たい。また入幕したばかりであり、年内には実力も含めていろいろなことが分かってきそうである。