琴奨菊引退 大関陥落後の頑張り

 大関陥落後にどのようにモチベーションを保っていくかは力士にとって非常に大事である。照ノ富士は大関復帰に意欲を燃やし、高安は大関復帰を目指すとともに、来年2月に妻の杜このみが出産予定ということでそれを励みに頑張っているようだ。そして琴奨菊は大関特例復帰が成らなかった2017年3月場所後に長男が誕生し、子供が物心がつくまで頑張ると語っていた。そして言葉通り3年半頑張った。また大関陥落直後は二所一門の連合稽古後に力士が「まだ力は落ちていませんよ」と口々に語っていた記憶がある。そして相撲を観ても力が落ちているようには見えなかった。勿論大関に復帰できる力は残っていなかった。しかし平幕上位でもそれなりに相撲が取れる力量は保っていた。

 一番わかりやすいのが先程触れた金星獲得3つだが、活躍はそれだけではない。若手力士の壁となり、存在感を示していた。確かに馬力は少しずつ低下していた。しかし立ち合いのぶちかましは強く、立ち合いの当たりの弱い力士は一気に寄り切られていた。私が注目していたのが遠藤戦である。遠藤に限らず、大学相撲出身者は全体として立ち合いの当たりが弱い。そして遠藤も琴奨菊が大関の頃から立ち合い負けし、一気に土俵の外に運ばれていた。しかし遠藤もコツコツと稽古し、立ち合いの当たりが少しずつ強くなった。そして最後の方は琴奨菊に勝てるようになった。また遠藤は平幕上位に定着し、小結を5場所務めている。遠藤は琴奨菊に勝てるようになったので成長したと私は見ている。そして遠藤だけではなく、琴奨菊に勝てれば平幕上位でも活躍できると見ていた。そして上位力士が相手でも通用するかどうか、琴奨菊戦を一つの物差しとして見ていた。また若手力士も琴奨菊に勝てれば自信になったと思う。その意味で果たした役割は非常に大きい。また単に相撲を取っていただけなら大関陥落後3年半も相撲が取れる訳がない。飽くなき向上心があったからこそここまで頑張れたというのが私の見方である。