2023年7月場所個別評価 錦木

 今場所は自己最高位となる東前頭筆頭だったが10勝5敗の好成績で殊勲賞を受賞した。そして初土俵から所要103場所での三賞受賞は、制度制定後、最も遅い受賞となった。初日の霧島戦は不戦勝。2日目は照ノ富士を掬い投げで破り、四年半ぶりとなる2個目の金星を獲得した。その後は大関獲りの三関脇を全て倒し、6日目は阿炎に勝って6連勝。また5月場所8日目から続く連勝を14まで伸ばした。7日目は琴ノ若に敗れて連勝はストップ。前半戦は7勝1敗で折り返した。そして後半戦は9日目に勝ち越しを決めると11日目は遠藤に勝ち、白星を二桁に乗せた。また上位力士との対戦を終えており、単独トップに立っていたので初優勝の期待も高まったが12日目からは4連敗し、10勝で場所を終えた。

 内容に関しては先場所後半の勢いをそのままにといった相撲が多かった。まずは横綱戦である。立ち合いから右を差し、左もこじ入れると照ノ富士に抱えられて前に出られるも左からの掬い投げで横綱を豪快に転がした。確かに照ノ富士の腰の状態も良くなかったのかもしれないが、それを差し引いても力強い内容だった。そして9日目の御嶽海戦である。立ち合いから御嶽海に二本差され、万事休すかと思われた。しかし両上手を取って残すとそのまま攻め返し、右から投げを打ちながら最後は寄り切った。一般的に外四つ、つまり両上手は不利とされるが、そのまま馬力で寄り切ったあたりが今場所の好調さを物語っている。

 先場所後半から続く錦木の強さの理由は二つある。一つは立ち合いが強くなったことである。以前は立ち合いの当たりが弱く、攻められて土俵際で残してからが錦木の相撲だった。それが五分で当たれるようになったことで馬力がより活きるようになった。もう一つは脇の甘さが解消されてきたことである。御嶽海戦のように二本差された相撲もあるので完全に消えたわけではないが、照ノ富士戦のように差し手争いで勝つということは以前は考えられなかったことである。相撲が厳しくなり、対戦相手に嫌がられる存在になってきたのは確かである。

 さて9月場所は念願の新三役が確実であり、小結ということになりそうだ。勿論勝ち越しが目標となるが、先場所から相撲内容が良くなっており、その意味では試金石の場所となる。今場所のような相撲が取れれば私は三役に定着できるだけの力は持っていると思う。一方で終盤4連敗したように、勢いが止まっている可能性もある。どちらに転んでもおかしくないという状況であり、注目したい。それにしても32歳で今場所が初三賞という地味な力士が三役に昇進するというのは今までの苦労が報われたという点で嬉しい限りである。