2023年3月場所個別評価 翠富士

 今場所は10勝5敗の好成績だった。4場所ぶりに平幕上位の番付から外れたので番付を下げてどの程度やれるか個人的に注目していた。そしてフタを開けてみれば中日勝ち越し、10日目は翔猿を割り出しで破り、連勝を10まで伸ばした。追走する大栄翔などは2敗であり、相撲の勢いを含めてひょっとしたらと感じたのは私だけではないと思う。しかし11日目に若元春に敗れると連日の三役力士との対戦で自分の相撲を取らせてもらえず、連敗が止まらなくなった。千秋楽の正代戦は勝てば敢闘賞受賞だったが極め出しで敗れ、三賞受賞を逃すと同時に5連敗で場所を終えた。

 内容に関しては相手の懐に入ってからの前に出る相撲で白星を挙げていた。7日目の高安戦は相手の強烈な右からのかち上げにも怯まず下からあてがうと右からの突き落としで高安を沈めた。翠富士があてがいながらも前に出て圧力を掛けたからこそ決まった突き落としである。見事としか言いようがない。8日目の碧山戦も右からのかち上げを受け、突き放されたが突き押しで応戦。しかも下がらない。そして攻防の中で左廻しを取り、頭を付けた。その後は碧山に左から抱えられながらも右からいなし、相手の懐に入って最後は寄り切った。高安は体重177キロ、そして碧山は体重189キロの巨漢力士である。そんな相手に体重117キロの翠富士が真っ向から勝負に臨み、堂々たる相撲内容で勝った。なかなかできることではない。また感心するのが小兵力士の割には押す力が強い点である。そして前に出ることの大切さを分かっているからこそまずは前に出て圧力を掛ける。その後で肩透かしなどの技を繰り出すので技が決まりやすい。ということで小兵力士の割には正攻法の相撲を取るタイプの力士である。

 11日目からの連敗に関しては勝機もなくはなかったものの、やはり三役力士ということで相手の動きの方が速く、本来の相撲が取れなかった。また連日の役力士との相撲だったので体力も消耗したはずである。千秋楽の正代戦も両方から抱えられて動きを止められたが、本来なら両方から抱えられるような力士ではない。今後に向けては三役力士との差をいかに縮めていくかがポイントになりそうだ。

 来場所は再び平幕上位の番付となるが、勝ち越しを期待したい。また先々場所は平幕上位で勝ち越しており、その力は既に備わっている。そして今場所小結であり、同じく小兵力士の翔猿にも勝っており、新三役の可能性は十分ある。あとは本人も痛感していたようだが、少しずつでいいので体重を増やしたい。現在は117キロだが少しずつだが体重は増えてきており、増量は期待できそうだ。来場所は再び上位総当たりの場所であり、強い力士との対戦が観られるのでそれが今から楽しみである。