2022年5月場所個別評価 若隆景

 今場所は9勝6敗という成績だった。結果として二桁勝利は挙げられなかったので大関昇進の足固めとはいかなかった。前半戦は3勝5敗で折り返した。東関脇ということで前半戦は上位力士との対戦がなかった。その中での5敗であり、この時点で二桁勝利は厳しくなった。しかし後半戦は巻き返した。9日目からの大関戦は3連勝。12日目の照ノ富士戦は敗れるも13日目からは再び3連勝し、9勝で場所を終えた。ただ14日目は不戦勝であり、また不戦勝で勝ち越したのでラッキーな部分はあった。

 内容に関しては私は初日の北勝富士戦が今場所を象徴していたと思っている。相撲は若隆景が立ち合いから右を差し、少し時間はかかったものの、最後は左からおっつけながら寄り切った。しかし私が言いたいのは若隆景の相撲内容ではない。押し相撲が得意の北勝富士が自ら右を差し、左を抱えに行ったという点である。北勝富士の方が体が大きいのでまずは相手の動きを止め、若隆景に攻めさせるという選択をしてきたのである。若隆景は軽量力士なので動きが止まった後の攻めが課題でもある。その弱点を突いてきたということである。結果は白星だったが流れるような攻めは見られず、苦労して勝ったという風に私は見えた。

 そして2日目以降もそれは続いた。突き押し得意の玉鷲や大栄翔も一気に前に出るのではなく、前に出つつも若隆景の動きもしっかり見るといった相撲を取っていた。結局最後は相手の引き技に手を付いてしまった。その後5日目の豊昇龍戦は相手に注文相撲を取られるなど、前半戦は流れに全く乗れなかった。

 それでも後半戦は巻き返し、勝ち越しに結び付けたあたりは流石である。気持ちを切らさず、自分の相撲を取ることに集中していた。このあたりの精神力はやはり強い。そして二桁勝てなかったものの、大関候補の筆頭であることに間違いない。

 課題が残ったのが照ノ富士戦である。立ち合いから左はおっつけにいったが照ノ富士に外されたところで両腕を抱えられた。こうなってしまっては横綱には勝てない。抵抗はしたものの最後は極め出された。照ノ富士は差してくるのを待っており、抱えさせないような攻めをしない限り勝機はない。お手本は2021年5月場所14日目の遠藤の相撲である。下手投げで遠藤が照ノ富士に勝った一番だが、遠藤が攻防の中で二本差すと肘を張ったり相手の腰に付くなどして抱えさせなかった。最後は右を深く差し、右外掛けを掛けながらの下手投げで照ノ富士を転がした。結果もさることながら、抱えさせなかった遠藤の攻めが絶妙に上手かった。また四つ相撲で勝つのであれば、これくらいの上手さがなければ横綱には勝てない。しかし若隆景は大関候補であり、来場所こそは勝利を期待したい。

 さて来場所はハイレベルな成績を残せば大関昇進の可能性も残されているが、まずは二桁勝利といきたいところである。相撲を観た限りでは前に出て勝とうという意識はあり、また力を付けてきている。そして二桁勝利といっても10勝では少し物足りないので、11番以上勝ち、9月場所につなげたいところだ。今場所は大関が大関としての役割を果たしておらず、その意味でも若隆景にかかる期待は大きい。横綱を除けば横一線といった力関係なのでそこから抜け出すくらいの活躍を求めたい。