2022年5月場所を振り返って 優勝争い その5

 そして千秋楽だが、私的には照ノ富士が優勝する流れが出来上がっていた気がする。なぜなら元関脇安美錦の現安治川親方の引退相撲が場所後の5月29日に行われるからである。安美錦は照ノ富士と同じく伊勢ヶ浜部屋所属であり、40歳まで現役を勤めた。また関取在位は117場所であり、魁皇と並んで歴代1位の記録である。そして白星に対する執念が凄かったという記憶が私にはある。当然だが執念だけでなく、それだけの稽古を積み重ねた上で土俵上での白星に結び付けていた。稽古に取り組む姿勢を含めて同部屋の力士が刺激を受け、手本としたのは容易に想像が付く。その引退相撲に向けて花を添えようと横綱の出番の前に同部屋の錦富士が十両優勝。新鋭の熱海富士は二桁勝利、そして再入幕の翠富士が9勝を挙げるなど、前祝をしているような雰囲気が漂っていた。

 さてそんな中で隆の勝と佐田の海の対戦となった。隆の勝が勝てば最低でも優勝決定戦に進める。一方佐田の海が勝てば隆の勝を引きずり降ろせる上に自ら優勝の可能性が出てくる。両者にとって大事な一番だった。相撲は立ち合いから佐田の海が二本差し、左は深く差した上で下手を取った。この時点でほぼ勝負が付いたようなものである。隆の勝は右を抱え、左はおっつけながら強引に前に出たものの、土俵際で左から掬い投げを打たれるとたまらず転がった。勝った佐田の海は冷静だった。そして自分の相撲を取ることだけに集中していた。このあたりが流石35歳のベテランといったところである。一方負けた隆の勝は明らかに動きが硬かった。本来なら二本差されてもおっつけて押し込まなければいけないところである。そして力量的にも勝たなければいけない相手である。しかし結果として左を深く差されてしまった。13日目同様、相手に負ける前に自分に負けてしまったような相撲内容だった。勝ったとしてももう一番あると考えてしまったのかもしれない。結果的に優勝争いのプレッシャーに押し潰された。観ている方からすれば隆の勝の立場に立てば少し残念な一番だった。

続く