2022年3月場所個別評価 高安

 今場所は12勝3敗の好成績で5年ぶり5度目となる敢闘賞を受賞した。1月場所は部屋にコロナ感染者が出たため休場となり、番付は据え置かれた。どうやら高安にとっては休場がプラスに働いたようである。体のケアと下半身強化に集中したらしい。去年の11月場所はおそらく持病の腰痛が原因と思われるが立ち合いがしっかり当たれていなかった。体重は180キロ以上あり、腰にかかる負担は相当なものであるというのは想像できる。休場したことで体がリフレッシュし、その上で稽古を重ねたので体の張りがとにかく凄かった。体の張り具合は自己最高だったのではないか。それくらいの凄い体つきで本場所の土俵に戻ってきた。

 そして初日から白星を重ね、中日勝ち越しを決めると同時に単独トップで前半戦を折り返した。そして連勝は10日目まで続いた。しかし11日目は1敗で追走する若隆景との対戦だったが寄り切りで敗れて初黒星。優勝争いでも若隆景に並ばれた。しかし12日目からは再び連勝した。そして13日目は若隆景が敗れたので13日目終了時点で再び単独トップに立った。優勝の可能性が高くなった、かに見えた。しかし14日目は攻め込むも正代に逆転の掬い投げで敗れて2敗目。そして若隆景が勝ち、千秋楽を前に二人が並走状態となった。これで優勝争いが全く分からなくなった。千秋楽は阿炎に敗れて3敗となったが若隆景も敗れ、二人の優勝決定戦となった。決定戦は終始高安ペースだったが最後は高安が攻めを焦り、若隆景に逆転の投げ技を許し、初優勝はお預けとなった。

 内容に関しては対戦相手によって四つ相撲と押し相撲を使い分けていた。特に良かったのが10日目の豊昇龍戦である。立ち合いから豊昇龍に二本差され、苦しい体勢となったが左から抱えて相手の攻めを凌ぐと攻防の中で左上手を取ると同時に相手の右下手を切った。そして頭を付けると左を深く差し、豊昇龍の右腰にくっついた。こうなると豊昇龍は投げ技を繰り出すしかなくなる。高安もそれを分かっており、安易には前に出ない。豊昇龍の投げ技と足技を警戒しながら少しずつ寄り、最後は少し吊るような形で寄り切った。時間はかかったが、考えながらじっくり料理したという意味で素晴らしい相撲だった。できればこういった相撲を正代戦や決定戦で観たかったのだが・・・。終盤でもこういった相撲が取れるくらいの精神面の成長を期待したい。

 初優勝を逃したことに関しては優勝争いの相手だった若隆景とは合い口が悪い点、そして千秋楽に敗れた阿炎とは2年ぶりの対戦であり、強さを肌で感じていなかった点もあり、不運な部分もあった。しかし去年の3月場所で逆転優勝を許した時に比べればマシである。インタビューでも淡々と受け答えをしており、結果が伴わなかったのは残念だが、精神的な成長は見て取れた。気持ちを切り替え、今度こそは初優勝といきたい。

 5月場所は東前頭筆頭という番付となった。3月場所の勢いをそのままに、二桁勝利を挙げ、三役復帰といきたい。恐いのはやはり怪我である。3月場所のような体調で本場所を迎えられるかがポイントになりそうだ。逆に腰痛が再発するようなことがあれば一転して苦しい土俵になる。3月場所は二大関を破っており、上位力士に通用する力は持っているが、この状態を継続できるかは私的には半信半疑というのが正直なところである。それでも元大関なので若手力士の台頭に待ったをかけ、存在感を示したい。