2021年11月場所を振り返って 優勝争い その2
横綱としては対戦する予定のない、しかも初顔の相手と対戦するのは嫌なのではないかと私は思っていた。しかし照ノ富士は違った。場所後の一夜明け会見では「ずっと阿炎関の相撲を見てきて、突っ張りがどんなものか、やってみたかった。久しぶりに取りたいなっていう気持ちになった。」と語っていた。対戦する心の準備はできていたようである。さすがは横綱である。
そして14日目の大一番。阿炎がもろ手で突き起こし、右はのど輪で押し込むと照ノ富士は土俵際まで追い込まれた。しかし照ノ富士は阿炎の左ハズ押しを右から抱え込むとそれを嫌った阿炎が差し手を抜き、引き技にいった。そこを照ノ富士がすかさず押し倒し、阿炎は転がった。短い時間だったが攻防があり、見応えのある一番だった。
取組後照ノ富士は「勢いを止めるためには自分の体を伸ばさないと、相手の体も伸びてくれない」と語っていた。攻められているように見えて、実は自ら誘い込んでいたのである。想定内という意味では照ノ富士の完勝である。攻めさせるという部分でも立派な横綱相撲である。
千秋楽だけは14日目の全取組が終了してから割が組まれるようになった。優勝は決まったものの、照ノ富士は初の全勝優勝が懸かる。そして番付順なら正代との対戦だが正代ではなく、貴景勝戦が組まれた。正代にとってはこれ以上ない屈辱である。しかし観ている方からすれば貴景勝で当然である。
結びの一番は貴景勝がぶちかまして押すが照ノ富士は後退しない。その後押し込まれるも土俵中央に戻した後は互いに見合う形になった。そして貴景勝が押したり突き落としを見せたりするも照ノ富士の体勢は崩れない。最後は貴景勝が引いたところを土俵の外に押し出した。まるで照ノ富士が貴景勝に稽古を付けているような内容だった。そして勝てば全勝優勝という言葉を出すことさえ恥ずかしくなるくらいの相撲だった。おそらく貴景勝も照ノ富士との力差が開いたことを肌で感じ、ショックを受けているのではないだろうか。貴景勝が勝つ為には立ち合いの当たりをもっと強くして押し込むしかない。照ノ富士の一強時代の到来を予感させる千秋楽結びの一番だったと言える。
終わり
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