2024年9月場所個別評価 貴景勝
今場所は3敗10休であり、13日目に引退届を提出し、年寄「湊川」を襲名した。
大関復帰を懸けた場所であったが、頸椎椎間板ヘルニアが理由で夏巡業を休場しており、場所直前も相撲を取る稽古ができておらず、これでは結果を残せる訳がない。初日の御嶽海戦、そして2日目の王鵬戦はいずれも四つに組み止められて寄り切られた。四つに組まれること自体ほとんどない力士なので、この内容では他ならぬ本人が一番悔しかったに違いない。
進退を懸けた場所であり、結果が出なければ当日の夜に引退を表明するのが通例である。しかし休場を発表し、本人によれば心の中ではもう決めていたものの、振り返る時間が少し欲しかったようである。その後11日目の夜に引退を決意し、師匠に報告した。
28歳の若さでの引退だが首を痛めており、他の元大関の現役力士と違って手足が短い。よって引退は懸命な判断だったと言える。大関を30場所務め、優勝回数4回は立派である。確かに目標としていた横綱に届かなかったのは私としても残念である。しかし歴代の大関の中でも優勝回数が示す通り強い大関であり、横綱に近づいた大関だったことは強調しておきたい。
印象に残ったのは引退会見での師匠の常盤山親方のコメントである。自ら体を張って手本を示しただけでなく、部屋の若い力士を強くさせようという気持ちが強いようだ。そしてげきを飛ばす言葉も非常に良く、私なんかより指導力があり、いい指導者になるのは間違いないと語っていた。自身の事だけでなく、部屋全体のことを考えていたことが分かる。今後は首の治療に専念するとともに部屋付き親方として勉強し、いずれは師匠となって後進を指導することを期待したい。
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