2024年9月場所を振り返って 優勝争い 12日目 若隆景ー大の里戦

 そして大の里が土俵に上がった。若隆景との取組だったが巡業の稽古では手合わせはあったようだが初顔合わせである。また協会審判部は高安をぶつけるという選択肢もあった。今年5月場所に一度対戦があり、その時は高安が勝っている。おそらくだが悩んだ上で若隆景を選択したものと思われる。若隆景はまだ右膝の状態は万全ではない。しかし土俵を簡単に割る力士ではなく、土俵際がしぶとい力士である。今場所の大の里に勝てる可能性という部分では審判部の選択は間違っていないように見えた。

 相撲は大の里は右差しではなく、もろ手突きを選択した。そして一気に土俵際まで攻め込んだ。しかし若隆景も立ち合いで頭から当たっており、上体は起こされなかった。そして土俵際で二本差し、大の里の攻めを凌いだ。今度は若隆景が二本差して攻め返すと大の里が左から突き落としを見せた。その後右手で若隆景の頭を押さえた。これで勝負あったかに見えた。しかし若隆景は大きくバランスを崩したものの、左足一本で何とか残した。このあたりは何度も観てきており、流石の動きである。ただ再度両足が俵に掛かり、後がない体勢となった。しかし二本差すと左はハズで大の里の右からの攻めを凌いだ後深く差し、下手を取った。そして右下手も取ると右下手から左に体を振って上手く体を入れ替え、最後は寄り切った。これで大の里は初黒星となり、優勝争いが少しだけ面白くなってきた。

 間違いなく今場所一番盛り上がった相撲と断言できる。若隆景は大の里相手にその技量をいかんなく発揮した。また強靭な下半身が土台となっており、その上にテクニックを持っているというのが若隆景の憎らしいところでもある。特に最後の土俵際に詰まったところは二本差したと思った次の瞬間に両下手を取っており、これは若隆景にしかできない芸当である。その後左に振って体を入れ替えたが、流れるような動きであり、スピードのある大の里も対処できなかった。まさに周囲を魅了する内容であり、改めて復活をアピールした。

 一方負けた大の里は重心が高くなり、廻しを取れなかったことが敗因である。ただこの一番は若隆景だから残せたという内容であり、他の力士であればそのまま押し出していたところである。負けたからといって悲観するような内容ではなかった。ただ今後に向けては看板力士となるので緻密に相撲を取ることが求められる。この負けを今後の糧としたいところだ。

続く