2025年7月場所個別評価 熱海富士

 今場所は東前頭10枚目だったが11勝4敗の好成績だった。連敗スタートとなったが3日目からは連勝し、前半戦は5勝3敗で折り返した。そして後半戦は9日目から再び連勝し、11日目に勝ち越しを決めると12日目は琴櫻を寄り切り、10勝目を挙げた。14日目は高安に敗れ、優勝争いから脱落したものの千秋楽は美ノ海に勝って11勝で場所を終えた。また二桁勝利は2023年11月場所以来10場所ぶりとなった。

 内容に関しては右四つに組み止める相撲で白星を量産した。5日目の佐田の海戦は当たって右を差したものの佐田の海に両廻しを取られ、やや苦しい形になった。しかし佐田の海が寄って前に出たところでまずは右下手を取った。その後佐田の海が寄り立て、右外掛けに行ったところで左上手を取り、左上手投げで体を入れ替えて寄り切った。手順を踏んだ内容であり、これまでには見られなかった相撲である。そして間違いなく新師匠の元横綱照ノ富士の指導の成果である。7日目の朝紅龍戦は差し手争いで負けた後モロ差しを許した。しかし左からおっつけた後右を巻き替えるとそれを嫌がった朝紅龍が体を離した。その後朝紅龍が右を差して前に出てきたところを両手を抱えての小手投げでねじ伏せた。差せずにそのまま終わっていたのが今までの熱海富士だったが、再度右差しを狙ったあたりに成長を感じる。そして勝ち越しを決めた11日目の正代戦は当たってすぐに右を差したが正代に両廻しを取られた。しかし右から起こして前に出ながら左上手を取るとあおって正代の左上手を切ってそのまま寄り切った。おっつけながらの左上手の取り方は師匠にそっくりだった。ということで全体として内容が素晴らしかったのだが、師匠の言うことを本人が素直に聞いて実行した結果と言える。

 一方14日目の高安戦で4敗目となり、優勝の可能性が消えたがこれは経験の差である。右は差せたものの高安に両廻しを許してしまってはどうにもならない。また右四つの相撲の完成度は高くなく、引き続き技量の向上に努めたい。

 来場所は平幕上位の番付となりそうだが、今場所の相撲内容なら非常に楽しみである。また同部屋の草野は黙っていても強くなると思うので、師匠には熱海富士に付きっきりで指導して欲しいところだ。右四つの相撲が完成されたら自ずと番付が上がっていくだけである。私的には新三役に向けてというよりも、右四つの相撲をひたすら磨いて欲しいと考えている。