2021年11月場所個別評価 照ノ富士

 今場所は15戦全勝で6回目の優勝を果たした。全勝優勝という結果だけでなく内容も伴っていた。右四つに組み止めての寄りを得意としているが、今場所は寄り切りで勝った相撲はたった3番である。自ら有利な体勢を作るのではなく、相手の動きに合わせた相撲を取り、料理していた。正に横綱相撲である。

 危なかった相撲と言えば2日目の大栄翔戦と14日目の阿炎戦である。大栄翔戦は大栄翔の右からのおっつけに左腕を跳ね上げられ、差されると俵に詰まった。しかし土俵際で左から突き落としを見せ、今度は右から掬い投げを打つと大栄翔は土俵に転がった。阿炎戦もそうだが土俵際で自ら体を伸ばしているように見えた。照ノ富士は191センチの長身であり、自ら体を伸ばせば当然相手の体も伸びる。大栄翔の側から見れば土俵際まで追い込んだものの、体が伸びてしまったので攻めようがなくなってしまった。スロー映像で見ると思ったよりゆとりを持って相撲を取っているのがよく分かる。

 また対戦成績でリードされている阿武咲と高安相手にも危なげなく相撲を取っていた。阿武咲戦は二本差されるも決めて相手の動きを止め、そのまま極め出した。高安戦は立ち合いからすぐ右上手を取り、相手の動きを見ながら最後は寄り切った。先場所負けている明生戦は立ち合いから左を深く差されるも左前廻しを取り、寄り立てられたが最後は左からの掛け投げで転がした。今場所の相撲を観ていると先場所負けた2敗は自分の相撲が取れなかったのが敗因ではなく、相手の攻めの受け止め方を失敗しただけなのかと思ってしまう。横綱なので当然と言えば当然だが、他の力士とは相撲のレベルの次元が違う。照ノ富士一強時代の到来を予感させる今場所の相撲内容だった。

 さて今年の照ノ富士は優勝4回、全ての場所で2桁勝利と安定感を見せつけた。特に大関を2場所で通過し、横綱に昇進したというのは才能だけでなく、意識の高さを象徴している。本人が言うには横綱しか目指していなかったようだ。そしてそれにふさわしい相撲を取り、横綱の座を掴んだ。文句のつけようがない。

 来場所は改めて横綱としての役割が求められるが、ここまできたらやるべき事をやって日々備えていくというところだと思う。一方対戦相手は大変である。どのような形でも受け止められるので、自分の相撲を精一杯取るしか選択肢がなくなったような状況である。勿論膝の具合は気になるが、今場所の内容から来場所は精神的にも有利な立場で土俵に上がれる。優勝回数も更に増えていきそうな勢いである。そして優勝回数が6回ということで優勝回数10回が見えてきた。優勝回数10回は栃錦、初代若乃花、北の富士などがおり、10回を超えれば歴代の横綱の中でも実績が上位となる。また同部屋だった日馬富士は9回で引退しており、その意味でも10回は越えたいところだ。1月場所は3連覇は勿論だが、横綱として土俵を引き締める役割を期待したい。