2025年3月場所個別評価 美ノ海

 今場所は西前頭14枚目だったが11勝4敗の好成績で初三賞となる敢闘賞を受賞した。前半戦はトップタイの7勝1敗で折り返した。そして後半戦は10日目に勝ち越しを決めたが翌日からは連敗して4敗目となり、優勝争いから後退した。しかし14日目は優勝争いで単独トップの高安を破ると千秋楽は勝てば三賞受賞という一番だったが大栄翔を押し出し、三賞を手繰り寄せた。また沖縄県出身で初の三賞力士となった。

 去年の11月場所後の冬巡業を全休し、体重が12キロ減ったということで体力が回復せず、先場所は11敗と大きく負け越していた。しかし先場所中も基礎運動で下半身強化に励んだようだ。そして今場所は体重も戻り、トレーニングの成果を発揮した。

 内容に関しては押し相撲と左を差す相撲で白星を挙げていたが、相撲の上手さが光った。初日の安青錦戦は左を差され、懐に入られかけたが左へ回り込んで残し、体勢を立て直すと今度は左からおっつけた。すると安青錦がまともに引き、そこを一気に押し出した。安青錦は滅多に引く力士ではなく、左の使い方が絶妙に上手かった。8日目の御嶽海戦は左前廻しが取れずに突き起こされ、押し込まれたが左に回り込み、右からの叩きが決まった。本人によると左廻しが触れた分残せたようである。また簡単には土俵を割らないのが持ち味の一つである。そして14日目の高安戦である。左前廻しが取れず、逆に右からかち上げられ、突き立てられた。しかし下からあてがい、懸命に残した。すると今度は押し返して反撃し、根負けした高安の引きに乗じて押し出した。館内の多くは高安の初優勝を願っており、取組後はため息が広がっていた。しかし美ノ海は素晴らしい相撲を取った。特に良かったのが反撃した後である。左から攻める一方で高安の左差しを徹底して嫌った。それに我慢できなくなった高安は思わず引いてしまった。引かせる相撲を取るということは安青錦戦同様、相手に嫌がられる相撲を取っているということである。その意味で会心の一番と言っていいと思う。

 勝ち負けという意味では13日目の玉鷲戦で勝てたことが大きかった。軍配差し違いで押し出しで勝ったものの、両足が宙に浮いており、取り直しになってもおかしくなかった。そして仮に負けていれば14日目は高安戦は組まれなかった可能性が高い。そうなれば三賞の可能性もなく、勝ったことが初三賞につながったと私は見ている。

 来場所は番付を上げるが再度の勝ち越しを期待したい。当たってすぐに左前廻しを狙う相撲が多いが、幕内力士は馬力があるのでなかなか取らせてもらえない印象がある。ということで私としては当たってすぐに狙うのではなく、押し合いの攻防の中で機を見て前ミツを狙うなど一工夫して欲しいという考えである。とはいえ押し負けない相撲が取れるようになった。また差すか、おっつけるかの判断も上手く、頭も相手のアゴの下に入れるなど、地味ながらも技は多彩である。さらに実績を積み上げ、今度は技能賞受賞といきたい。