2021年7月場所個別評価 照ノ富士
今場所は14勝1敗という成績が評価され、第73代横綱昇進となった。新横綱は令和では初めてであり、平成生まれでも初の横綱である。初日から安定感のある相撲で白星を並べた。そして千秋楽は白鵬に敗れたものの、経験豊富な横綱に手段を選ばない相撲を取られては仕方がない。逆を言えば白鵬は照ノ富士の力量を認めたからこそのかち上げや張り手だったと言える。
内容に関しては右四つの相撲に安定感があった。特に良かったのが重心を低くしての攻めである。両膝に爆弾を抱えているものの、膝の周辺の筋肉を鍛えたことで膝が曲がったままの状態で相撲が取れるようになり、それが安定感につながっている。鍛えた部分は違うが、かつての大横綱千代の富士は脱臼癖があったが腕立て伏せをするなど徹底的に腕を鍛え、克服した。筋肉を鍛えた経緯は違うものの、弱点を克服し、前に出る相撲に徹して横綱に昇り詰めたという部分は全く一緒である。
勝ったものの少し危なかったのが3日目の隆の勝戦、4日目の大栄翔戦、そして13日目の正代戦である。隆の勝戦は右四つに組み止めたかに見えたが隆の勝に引かれ、体が離れた後は頭を付け合う形となり、長い相撲になった。最後は腕捻りで転がした。大栄翔戦は一気に押し込まれてピンチだったが右を差すと逆に一気に寄り切った。正代戦は正代の左からの掬い投げで体が起きたが何とか残すと攻め返し、最後は押し出した。土俵際は少しもつれたが、膝がしっかり曲がっていたからこそ押し切れた。いずれも攻められたもののその後は体勢を立て直しており、本当の意味では危ないと言える相撲は全くなかったと言っていい。
さて来場所は新横綱としての場所を迎えるが、ここ数場所の相撲を取っていれば横綱としての役割は果たせると思う。しかし期待しているからこそ、敢えて要求したい。それは右四つの相撲を今まで以上に極めてほしいということである。厳しく言えば右四つに組み止められず、手こずった相撲が何番かあったことは事実である。厳しい立ち合いから右四つに組み止め、盤石な相撲をもっと増やしてほしいというのが私の願いである。また私はまだ右四つの相撲は完成されてはいないと思っている。結果を出すと同時に右四つの相撲をもっと突き詰めていけばまだまだ進化できる。今まで以上に貪欲な気持ちで相撲に取り組んでほしいところだ。
また8月4日付の官報において日本国籍取得が告示された。これで将来的に親方として協会に残ることが可能になった。師匠が元横綱旭富士であり、お手本が身近にいる上に苦労してきているので指導者としての資質も備わっている。引退後は協会に残るという道ができたので精神的にも心おきなく相撲が取れる環境が整った。あとは横綱としての内容と結果が求められる。降格はなく、大変な地位だが頑張って欲しい。また品格という点では白鵬を手本としてほしくない。土俵上の振る舞いや所作にも期待したい。
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