2021年7月場所個別評価 白鵬

 進退を懸けた場所となったが15戦全勝で7場所ぶり45度目の優勝となった。これにより横審が決議した「注意」は取り下げとなった。その一方で14日目の正代戦の徳俵付近まで下がった仕切り、そして千秋楽の照ノ富士戦のカチ上げと張り手、及び取組直後のガッツポーズに関して批判された。横綱としての品格がまたも問われることとなった。

 やはりポイントは初日の明生戦だったと思う。張り手から右上手を取るも明生に右上手を取られ、がっぷり四つとなった。白鵬は左四つでも相撲が取れるものの明生は左四つ得意の力士の上にメキメキと頭角を現してきた力士である。そして観ている方も力が入る一番となったが白鵬が寄り立てるも寄り切れない。今度は逆に明生が寄りながら右外掛けを仕掛けるも、それと同時に白鵬は掛け投げを繰り出し、投げの打ち合いとなったが明生の左ひじが付くのが早く、白鵬に軍配が上がった。当然だが進退が懸かっているので初日に勝つと負けるとでは大違いである。内容はともかく、この一番に勝ったことが非常に大きかった。

 2日目以降は少しずつ調子を上げ、相手を寄せ付けなかった。また連日の張り手も途中からは必要がなくなるくらい相撲にゆとりが出てきた。危なかった相撲は背中を向けられ、押し込まれた4日目の隆の勝戦くらいである。それでも終盤戦は役力士との対戦となり、楽には勝たせてもらえない。そのことは白鵬自身が一番よく分かっている。12日目の御嶽海戦は立ち合いで右を差すも上手は取れなかった。そして御嶽海の突き落としを警戒しながら左上手を取り、万全の体勢で寄り切った。13日目の高安戦は張り差しと見せかけて高安の右腕を取り、とったりで転がした。作戦勝ちである。おそらく組まれたらまずいと思っての選択だったと思う。正々堂々の勝負とは言えない。それは14日目、千秋楽も同様である。批判覚悟で勝ちにいった。横綱という立場を考えると特に大関以上との対戦は真っ向勝負で臨むのが当然であり、その部分では批判されても仕方がない。

 取組以外で気になったのが右膝の状態である。場所後の一夜明けのリモート会見では15日間ずっと同じ感じだったと語っていた。悪くもならないし良くもならないといった感覚だったようだ。少なくとも水を抜く必要はなかったようであり、千秋楽まで持ちこたえられた要因と思われる。

 来場所は照ノ富士が横綱に昇進し、二横綱となるが、おそらく自分のことを考えるだけで精一杯なのではないかという気がする。そしてやはり右膝の状態が最大のポイントである。今場所は千秋楽まで相撲を取れたが36歳という年齢であり、来場所以降も続く保証はどこにもない。また進退を懸けた場所ではなくなるだけで、序盤をどう乗り切るかが非常に重要である。序盤を乗り切り、右膝の状態が良ければ白鵬の時代はまだ続くかもしれないが、それでも今場所終盤の相撲を取れば批判がさらに大きくなるのは目に見えている。また今場所優勝したことで引退の機を逸したとも言える。どのような形で相撲人生に幕を引くのかにも注目したい。