2025年1月場所個別評価 阿炎

 今場所は三役復帰の場所となったが7勝8敗で負け越した。前半戦は琴櫻、大の里の二大関を倒す活躍もあり、5勝3敗で折り返した。そして後半戦は10日目は全勝の平幕の金峰山を当たってすぐの突き落としで破り、初黒星を付けた。翌11日目に7勝目を挙げるもその後は連敗し、千秋楽に負け越しが決まった。

 内容に関してはよく考えた上で相撲を取り、土俵上では思い切りの良さを発揮していた。やはりハイライトは大関を破った相撲である。2日目の琴櫻戦はモロ手突きからの右のど輪で琴櫻をじわじわと後退させ、そのまま突き出した。一気に出ると土俵際でのいなしがあるので、それを見越しての攻めだった。また琴櫻は土俵際でも粘れる自信があるので、土俵際でも胸を出すことが多い。よって琴櫻の心理を読んだ上でののど輪押しでもあり、したたかな相撲内容だった。4日目の大の里戦はモロ手突きから左に体を開いての突き落としを決めた。土俵に上がる前は四つに組む作戦だったようである。しかし土俵に上がったら塩の量が多く、大の里は前傾姿勢の上に踏み込みの幅が大きいので滑る可能性があると思い、モロ手を伸ばして距離を作ったようだ。コメントを見ると対戦相手だけでなくあらゆる事を考えており、感心してしまう。また思い切りのいい相撲が多いが、思い切りがいいだけの力士だはないことがよく分かる。ある程度計算に入れながらの思い切りの良さなので成功率が高くなるのも納得である。

 場所前は昨年末に2023年12月に死去した先代師匠(元関脇・寺尾)の墓前に「元気でやっています」と報告したようだ。おそらく先代師匠も天国から見届け、活躍を喜ぶと同時に感心しているのではないだろうか。寺尾の現役時代は阿炎ほど考えて相撲を取っているとは思えず、その点では先代師匠を超えていると私は考えている。千秋楽に負け越したが、「今場所は負けても自分のやりたいことができたので、いいかなと思います」とのコメントが清々しい。このあたりは元寺尾の弟子らしい言葉であり、先代師匠の教えを受け継いでいるのがよく分かる。

 さて来場所は運よく三役に残留できそうだ。今場所は千秋楽で負け越しているように、力量的には三役で勝ち越せるかボーダーラインといったところである。先述の考えた取り口も悪くないが、もう少し前に出る相撲を取って欲しいという思いもある。ただ今の取り口は前に出る相撲を含めて相手の考えを混乱させる取り口であり、魅力の一つでもある。勿論勝ち越しを期待したいが、それと同時にどんな相撲を取るのか、その内容にも注目したい。