2021年5月場所個別評価 照ノ富士

 今場所は大関復帰の場所となったが12勝3敗という成績で4回目の優勝を果たすと同時に自身初の二連覇を達成した。また大関復帰場所での優勝は史上初となった。場所前は師匠の伊勢ヶ浜親方によるとあまり稽古ができなかったようである。その点で少し不安な部分があったがフタを開けてみれば初日から圧倒的な強さで白星を重ね、後続とは星二つ差をつけ、独走態勢を築いた。しかしケチが付いたのが11日目の妙義龍戦である。一旦は軍配を受けるも物言いとなり、小手投げを打った際に頭を押さえつけた右手がマゲを掴んでいるとされ、反則負けで初黒星となった。勝った妙義龍は何とも言えない表情で勝ち名乗りを受けていた。本人によると感触は分からなかったらしい。翌12日目は過去1勝4敗と苦手な阿武咲戦だったが、立ち合いで相手の出足を止め、左前まわしを取ると一気に寄り切った。気持ちを切り替えたあたりはさすがである。14日目の遠藤戦は勝てば優勝だったが物言いの末黒星となり、優勝は千秋楽に持ち越しとなった。そして千秋楽は本割で貴景勝に敗れ、決定戦に持ち込まれた。再び本人にとっては嫌な流れとなったが決定戦を制し、優勝を決めた。ちなみに照ノ富士は過去3回の優勝決定戦は全て負けており、その点では決定戦で勝てたのは今後に向けて良かったのかもしれない。

 内容に関しては左四つに組み止める相撲で他を圧倒した。また右四つではなくても廻しを取れば十分といった内容だった。初日の明生戦は二本差されるも豪快に極め出した。相撲で極めるのはあまり良くないのだが、以前の照ノ富士は抱えると投げにいき、更に体勢を悪くしていた。しかし今は抱えても前に出る意識があるので私は問題ないと思っている。11日目の妙義龍戦は左上手を取るも切られ、少しカッとなってしまったのかもしれない。強引さが裏目に出た格好である。そして苦労したのが9日目の高安戦である。最近4連敗中だったが組み止められずに苦戦した。最後は押し込まれるも土俵を飛び出しながら叩き、物言いが付いたが軍配通り照ノ富士の勝ちとなった。負けはしたものの、高安は照ノ富士が突き放すと廻しを狙い、廻しを狙うと突き放すなど照ノ富士対策を心得ているようである。照ノ富士にとって今後も難敵となりそうだ。終盤二日間は連敗したが精神面というよりも両ひざが限界に達していたのだと思う。それよりも初日から圧倒的な内容で白星を積み重ねたことが大きい。大関としての役割を果たしたのは勿論、横綱昇進が現実的になってきたと言っても過言ではない。

 来場所は綱取りとなるが、ハードルは優勝かそれに準じる成績ということで高くはない。当然である。この一年で三度優勝しており、先場所、今場所の連覇である。技術は問題ないのであとは精神面と両ひざの状態が焦点となる。それでも精神面に関しては優勝インタビューを聞いても慢心している素振りは全く見られなかった。両ひざも確かに痛みはあるのかもしれないが立ち合いの踏み込みは鋭くなっており、相撲を観た限りでは全く問題ない。白鵬も6場所休場しており、新横綱誕生が待たれるといった側面もある。綱取りは大変だとは思うが誰もができることではない。必要以上に綱取りを意識せず、平常心で来場所を迎えてほしい。既に横綱に上がれる実力は備わっている。あとは土俵の上で結果を出すだけである。7月場所後の横綱昇進を期待したい。