2021年5月場所個別評価 貴景勝

 今場所は12勝3敗という成績だった。白星スタートも2日目は御嶽海に敗れて初黒星。しかしその後は白星を積み重ね、前半戦は7勝1敗で折り返した。しかし後半戦は9日目に大栄翔に敗れて2敗となり、全勝の照ノ富士との星の差が2つになった。そして13日目は遠藤に敗れて3敗となり、再び照ノ富士との星の差が2つとなり、千秋楽を待たずに優勝が決まるものと私は思っていた。しかし14日目は照ノ富士が遠藤に敗れ、土俵下で見ていた貴景勝に逆転優勝の可能性が出てきた。そして結びで正代を破り、星1つ差で直接対決となった。千秋楽は照ノ富士を突き落としで破り、決定戦に持ち込んだ。しかし決定戦は叩き込みで敗れ、逆転優勝は成らなかった。それでも千秋楽まで優勝決定を延ばし、決定戦に持ち込んだ点は私だけでなく、協会幹部も高く評価しているものと思われる。

 内容に関しては今場所は突き落としや叩き込みで勝った相撲が多く、前に出て勝った相撲は少なかった。この部分で前に出て勝つ相撲が増えれば横綱昇進への機運が更に高まってくると思う。それでも伸び盛りの若隆景、明生は寄せ付けず、7日目の初顔の豊昇龍戦は相手の変化を頭に入れ、落ち着いて料理した。そして12日目の逸ノ城戦は相手の右からの叩き込みに膝が崩れかけたが立て直して押し出した。減量していなければ負けていたかもしれない。そう思わせた一番だった。

 負けた相撲に関しては御嶽海戦は押し込むも右を差されたのが敗因。押し切って勝負を付けたかった。大栄翔戦は押し込んだところで左にいなされ、体が大きく泳いでしまった。遠藤戦は押し込むも土俵際で落とし穴が待っていた。押し相撲力士なので出るしかない場面である。勝った遠藤を褒めるしかないが、痛い3敗目となった。

 来場所は朝乃山が休場するのが大きな違いである。プラスに考えればライバルが一人いなくなる。一方大関としての責任は重くなる。綱取りではないものの、横綱昇進に向けては試金石となりそうである。今場所は優勝できなかったので優勝という結果が欲しいところだ。2場所連続で優勝争いはしており、来場所優勝できれば横綱昇進の可能性が高まるのはほぼ間違いない。あとは相撲内容である。繰り返しになるが、前に出る相撲が増えれば横綱昇進に向けてムードがさらに高まる。突き落としは貴景勝の武器だが、まさに伝家の宝刀といったところであり、続けて繰り出すのはあまり良いとは言えない。減量との兼ね合いもあるが、できれば前に出る相撲で勝負を付けてほしいというのが私の願いである。いずれにしても照ノ富士だけではない。貴景勝も綱取りのチャンス到来である。頑張って欲しい。