2021年5月場所個別評価 朝乃山

 今場所は7勝5敗3休という成績に終わった。初日は大栄翔の出足を何とか止めて白星スタートとなったが2日目からは連敗。そして6日目、8日目も黒星で4勝4敗で折り返した。後半戦は連勝し、巻き返しが期待されたが場所11日目の5月19日に相撲協会が作成した「新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」に違反したことが発覚。一旦は事実無根と否定したものの11日目終了後に協会に再び呼び出され、突き詰められたところ一転して一部事実と認めた。そして師匠の高砂親方は謹慎の意味を込め、12日目からの休場届を提出した。 

 内容に関しては負けた相撲は勿論だが勝った相撲も攻め込まれる場面が目立った。得意の右四つに組み止める相撲がほとんどなかったといっても過言ではない。しかしこれ以上は触れまい。なぜなら週刊文春によると場所中に部屋を通して取材を申し込んだものの師匠が取り合わなかったようだ。当然そのことは朝乃山の耳にも入っており、相撲に集中できなかったというのが本当のところだと思う。しかしコロナの状況でガイドラインを違反し、しかも大関という立場を踏まえると理事長が指摘したように自覚が足りなかったと言われても仕方がない。

 そして6月11日に処分を決める臨時理事会が開催され、6場所の出場停止と50%の減給6か月が言い渡された。また朝乃山は引退届を提出していたが、今後程度を問わず協会に迷惑をかける行為をした場合には、預かっている引退届を受理すること、またそのことを了承する旨の誓約書を提出することの二点を条件として、引退届を未受理とした。そして師匠の高砂親方は20%の減給処分3か月となった。

 6場所出場停止はなかなか厳しい処分である。尾車親方は「素直に事実ですと認めていればここまでのことはなかった」と明かしている。協会幹部の怒りを買ったのは間違いない。私的には引退勧告と同じである。6場所休場なので筋力の低下は避けられない。またそれ以上にアスリートとしてモチベーションが保てるかどうか?。大関に復帰した照ノ富士のように怪我ではないのでその点が心配である。自ら協会に出向き、引退届を受理してほしいとお願いに行く可能性もあると私は思っている。本人の意識は勿論だが周囲のサポートが重要なのは言うまでもない。一からやり直して、出直してと言葉でいうのは簡単だが実際はそう簡単なことではない。ある親方が話していたようだが、入門したころの気持ちに立ち返れるかどうかが大事になってきそうである。

 今後は親しくしていた人も離れ、イバラの道となる。そしてこれは私からの提案だが、自ら復活する前に、部屋の幕下以下の力士を一人でも多く十両に引き上げてほしい。部屋には十両昇進を目前に伸び悩んでいる村田、朝興貴、深井、寺沢がおり、今場所三段目付け出しで優勝を果たした石崎もいる。いずれも持っている素質は高く、ファンとして観ていてももどかしくなるくらいである。現在は出稽古ができない状況なのでぶつかり稽古で積極的に胸を出し、一人でも多く強い力士を育ててほしいところだ。あとはこうなってしまった以上、心を入れ替えてやり直すしかない。