2021年5月場所を振り返って 優勝争い その3

 14日目。照ノ富士は遠藤との対戦だったが私は照ノ富士が勝ち、すんなり優勝を決めるものと思っていた。遠藤は今場所は好調とはいえ最近は休場が増え、怪我も相次いでいた。また朝乃山の休場により、審判部の苦肉の策ともいえる割だった。正代よりも調子のいい遠藤と対戦させた方がいいという判断だったと思う。

 しかし勝負事はふたを開けてみなければ分からない。遠藤が低く鋭く踏み込むと左を差し、右もこじ入れてモロ差しになった。すると腰を落とし、両ヒジを張って両上手を与えず抱え込ませずという形を作り、左に回る照ノ富士を寄り立てた。昨日まではほぼ盤石な相撲を取っていた照ノ富士がまさかの劣勢を強いられた。すると場内からは今場所初めてと言っていいくらい大きな歓声が上がった。そして照ノ富士の左小手投げがすっぽ抜けると遠藤は右下手を深く取り、寄りながら右外掛けにいった。しかし照ノ富士も棒立ちになりながら諦めない。両手で右を抱えて強引に小手投げにいき、右外掛けをこらえると左足を跳ね上げ、掛け投げを打った。最後は遠藤の右下手投げと照ノ富士の左小手投げの投げの打ち合いになったがほぼ同時に落ちた。行司軍配は照ノ富士に挙がったが物言いがついた。そして長い協議の末、照ノ富士の右ヒジが付くのが早いとの判定で行司差し違いとなり、遠藤の勝ちとなった。

 相撲に関してはモロ差しになった後両ヒジを張り、抱え込ませなかった遠藤の技量と土俵際の粘り、特に体の柔らかさが光った。体勢的には普通に考えれば行司軍配通り照ノ富士の勝ちである。しかし遠藤の驚異的な足腰が差し違いへと導いた。一方負けたとはいえ、絶望的な体勢になりながらも勝機を探った照ノ富士の粘りも見事だった。さすがは横綱を目指す大関である。

 また協議に関しては本当に大変だったと思う。確かに照ノ富士の右ヒジが先に付いているがその時は遠藤の体は宙に浮いている。体がないと言われても仕方がない体勢である。その意味では行司さんの軍配は間違っていなかったと私は思っている。しかしこの一番はただの一番ではなく、照ノ富士の優勝が懸かった一番である。勝負事に関わっている立場として、簡単に「はい、照ノ富士の優勝です」という訳にはいかない。要は照ノ富士には誰にも文句を言われない勝ち方が求められた訳である。しかし物言いがつく一番となった。また千秋楽まで優勝が決まらなければ盛り上がるという考えもひょっとしたら審判の頭の片隅にあったかもしれない。これはあくまで自分の想像ではあるのだが。いずれにしても遠藤の勝ちとし、照ノ富士の優勝を先送りにした審判の判断は妥当だったと言える。

 結びの一番は3敗の貴景勝は正代との大関対決となったが突き落としで破り、逆転優勝の可能性が出てきた。これで2敗が照ノ富士、3敗が貴景勝と遠藤の2人となり、優勝争いは3人に絞られた。千秋楽は遠藤は正代と、そして照ノ富士は貴景勝との対戦となった。照ノ富士が勝てば優勝、負ければ遠藤が勝った場合は優勝決定巴戦の可能性もある。

続く