2024年9月場所個別評価 阿炎

 今場所は関脇だったが5勝10敗という成績に終わった。4日目までは2勝2敗だったが5日目からは7連敗となり、10日目に負け越しが決まった。また千秋楽は前日に優勝を決めていた大の里との関脇対決となったが引き落としで破り、役力士として意地を見せた。

 内容に関しては序盤は自分の相撲が取れていた。そして5日目からの連敗は8日目あたりまでは攻め込む場面もあり、相撲自体は悪くなかった。しかし黒星が続くと相撲の流れが悪くなるのも事実である。9日目からは気迫は伝わってくるものの体は動かないといった感じであり、悪循環に陥った。また5日目からは熱海富士、若元春、王鵬戦と続いたが3人共に新三役、または三役復帰を目指す力士であり、目の色を変えて相撲を取っていた。いずれもどちらに転んでもおかしくない内容だったが結果として勝てなかったのが痛かった。やはり平幕力士な相次いで負けると三役を守るのは厳しくなる。

 それでも感心したのは12日目の豊昇龍戦である。立ち合いで当たらずに大きく左へ動くと豊昇龍がバランスを崩し、そこを一気に寄り倒した。確かに阿炎は時に変化する力士であり、変化したこと自体に驚きはない。しかし7連敗中であり、普通なら変化したとしても中途半端な形となり、自滅するところである。しかし思い切って左へ動いたということは、負け越している中でも気力が充実していた証拠である。負けた豊昇龍は「勉強になりました。笑うしかない」と苦笑いしていたようだ。また去年の12月に亡くなった元関脇・寺尾の先代師匠は「最後まで諦めないでやる」と指導していたらしい。その教えを土俵で体現していた。そして豊昇龍戦だけでなく、千秋楽の大の里戦も諦めない気持ちがあったからこその白星である。大の里に勝負の厳しさを教えたという意味でもこの結果で良かったと私は思っている。

 11月場所は5場所ぶりの平幕での土俵となるが、勝ち越しての一場所での三役復帰を期待したい。今場所負けた若元春と王鵬が三役に上がりそうであり、立場逆転ということで今度はやり返す番である。力量的には若元春や王鵬とほぼ同じであり、来場所も激しい攻防のある相撲が観られそうだ。