2021年1月場所を振り返って 優勝争い その3

 そして千秋楽。大栄翔が勝てば優勝。相手は隠岐の海である。大栄翔は目の前の一番に集中するだけである。迷いはない。立ち合いの仕切りでしっかり腰が割れ、両手を付き、相手が立つのを待つ。私は仕切りの時点で大栄翔の優勝を確信した。隠岐の海も待ったをすればよかったのだが、らしいと言えばらしいのだが、ためらいながらも何となく立ってしまった。結局大栄翔がぶちかましてから押し、右、左とのど輪を入れ、一気に後退させると最後は突き出し、初の賜杯を掴み取った。文句のつけようのない会心の一番だった。悲願の初優勝である。

 大栄翔の優勝は素直に嬉しい。なぜなら実力の割にはスポットライトが当たらず、地味な存在だったからである。追手風部屋でいえば人気力士の遠藤に、そして母校の埼玉栄高校でいえば貴景勝や北勝富士などに注目が集まっていた。大栄翔はその陰に隠れていたという印象は否めない。しかし優勝したことで注目が大栄翔に集まった。大げさに言えば幕内最高優勝を1回でも果たせば一生語り継がれる。少なくとも相撲ファンの間では記憶に留められるはずである。また注目されたことで大栄翔も世界が変わったと思う。そして自信もついたのではないかと想像している。今場所の優勝を機に一層の飛躍を期待したい。

 その一方で綱取りの貴景勝が初日から連敗するなど、上位陣は前半戦から星の潰しあいになってしまった。結局そのことが大栄翔の優勝を許す原因となった。序盤から役力士が相次いで負けてしまうと土俵全体に締まりがなくなる。結局役力士に関しては力の差はほとんどないということだと思う。この状況の中で誰か抜け出してほしいところだが、混戦状態が続いている。「白鵬がいれば…」と思うファンも多かったのではないか。貴景勝の綱取り失敗を含めてその点が」非常に残念でならない。

終わり