嫌らしい相撲を取る男! 翔猿 始めに 2023年7月場所の照ノ富士戦

 初めに言っておくが「嫌らしい」というのは褒め言葉である。そして相手が嫌がるような相撲を取るという意味である。特に相手が横綱や大関だと相手の弱点を研究し、そこを徹底的に突いてくる。また見せ場を作るだけでなく勝つことも多く、上位キラーとして存在感を発揮している。

 中でも凄かったのが2023年7月場所3日目の照ノ富士戦である。相撲は立ち合いから翔猿が押すも横綱に逆に押し返され、右を深く差された。私はこの時点で横綱が勝ったと思った。しかしここから翔猿の逆襲が始まる。当然照ノ富士は腕を返し、右下手を取って寄り立てた。しかし翔猿は右下手を取って何とか残した。そしてもう一つ残せた理由がユルフンである。翔猿の廻しの締め方が緩いので横綱が廻しを取っても力が入りにくい。結局照ノ富士は攻めるのを止め、一呼吸置いた。そして再び照ノ富士が前に出てきたところを翔猿は下がりながら左を巻き替え、頭を付けた。翔猿は右下手を取っており、これで体勢が良くなった。一方照ノ富士は左上手は取ったものの一枚廻しでしかも伸び切っており、ほとんど効いていない。その後横綱は廻しを取ったまま左から抱えて寄るも翔猿は頭を付けて懸命に残す。その後翔猿が蹴返しを見せると横綱が一気に土俵際まで寄った。しかし右掬い投げで残すと今度は横綱の左上手が切れた。そこを翔猿は照ノ富士の左の腰に密着し、頭を付けてそのまま寄り切った。1分近くの長い相撲だったが執念で自身二つ目の金星を獲得した。取組後横綱は膝をガクガクさせており、翌日から休場となった。一方の翔猿も勝った後は酸欠状態であり、フラフラになっていた。

 見事な金星だったが勝因の一つはやはりユルフンである。ただユルフンにしただけで勝てるほど相撲は甘くない。批判もあるが対戦相手によって廻しを緩めたりするのは力士にとっては常套手段である。よって褒められることではないが、かといって責められるものでもない。厳しく言えば対戦相手もそれくらいのことは頭に入れておく必要がある。そして素晴らしかったのは翔猿が終始動きを止めなかったことである。取組中翔猿の廻しはかなり緩んでおり、動きが止まれば廻し待ったになっても全くおかしくなかった。しかしそれは自身がよく分かっており、廻し待ったのはしたくなかったのでとにかく動き回った。行司としても止めようがなかった。そこまで頭に入れ、しかも白星を手にしたのだからあっぱれとしか言いようがない。また翔猿らしさを象徴する一番だったと私は思っている。

続く