2024年5月場所個別評価 若隆景

 今場所は西十両6枚目であり、関取復帰二場所目となったが14勝1敗のハイレベルな成績で優勝を果たした。また幕内優勝を経験した後に十両で初優勝したのは若浪、多賀竜、朝乃山に次いで史上4人目となった。前半戦は7勝1敗で折り返した。そして後半戦は11日目はここまで全勝の遠藤を肩透かしで破り、優勝争いのトップに並んだ。その後14日目は阿武剋との1敗対決を制し、単独トップに立った。千秋楽の對馬洋戦は相手の動きを警戒しながら立ち合いで左に動いていなし、押し出して優勝を決めた。

 内容に関しては右四つの相撲と押し相撲に加えて上手からの出し投げで白星を挙げていた。印象に残ったのはまずは初日の白熊戦である。突き放すも左四つに組み合い、胸を合わせる形になったので若隆景にとっては勝手が悪くなった。そして若隆景が右から投げに来るところを白熊が寄り、両者が土俵下に転落した。軍配は白熊に上がったが物言いが付いた。スロー映像で見ると土俵を割る前に若隆景は左足を上げている。一方白熊の右足は若隆景の足が出る前に甲が返っており、軍配差し違いで若隆景の勝ちとなった。簡単に土俵を割らないのが若隆景に限らず、大波三兄弟の真骨頂である。内容は決して良くないが、怪我が回復してきている証拠である。そして出し投げで勝った相撲である。上手出し投げで勝った相撲は3番あるが、2日目の獅司戦も上手出し投げから寄り切っており、それを合わせると4番である。特に後半戦の出し投げは、前半戦で前に出る相撲を見せられているだけに、対戦相手はどうしようもない。出し投げのお手本であり、切れ味だった。

 もう一つ好材料としては15日間を乗り切るスタミナが戻ってきたことが挙げられる。3月場所は7連勝スタートも後半は失速し、9勝止まりだった。しかし今場所は白星を並べただけでなく、千秋楽まで体がしっかりと動いていた。先に向けてが非常に楽しみである。

 7月場所は1年ぶりの幕内復帰となるが、この内容なら期待が持てそうだ。また右膝を大怪我したことで「動く相撲」から「動かない相撲」へモデルチェンジしている。今場所前半戦のように前に出る相撲が取れれば駆け引きは非常に上手く、対戦相手にとっては非常に厄介な存在となりそうだ。私としては元大関栃東のように左右のおっつけを主体としながら自分なりにアレンジするのが理想だと考えている。技の引き出しに関しては若隆景の方がたくさん持っており、上手さを活かしたい。番付を戻してほしいのは勿論だが、技能相撲が持ち味であり、好取組が一気に増えるのは間違いない。そして兄の若元春とともに土俵で暴れまわることを期待したい。