2024年5月場所個別評価 大栄翔

 今場所は8場所ぶりの平幕となったが11勝4敗の好成績だった。初日から役力士との対戦が続いたが琴櫻、霧島の二大関を破る活躍を見せ、前半戦は6勝2敗で折り返した。この時点で優勝争いのトップは1敗であり、優勝の可能性もあった。しかし後半戦は9日目に熱海富士に敗れて3敗となり、優勝争いから後退した。その後12日目は明生に敗れて4敗目となったが、この黒星が優勝に向けては非常に痛かった。終盤は連勝し、千秋楽は琴勝峰を破って11勝目を挙げ、優勝の可能性を残した。しかしその後の取組で大の里が勝って優勝を決めたため、決定戦進出とはいかなかった。

 さすがに平幕に下がれば白星を並べる実力がある。その部分では今年1月場所の若元春と全く同じである。三役復帰を語るレベルの力士ではない。三役にいて当然の力士である。改めて地力の高さを示した。

 内容に関してはいつものように力強い突き押し相撲で白星を挙げていた。ただ以前のように一気に押し切る相撲は減ってきている印象である。その部分をいなすことで補っている。突き押し相撲を取る中で絶妙なタイミングでいなしを入れて相手を横に向かせ、再度突き押し相撲を取っていた。貴景勝のようにいなして決めるのではなく、相手のバランスを崩すことが目的であり、相手を土俵の外に出そうという姿勢は好感が持てる。

 特に良かったのは初日の琴櫻戦と千秋楽の琴勝峰戦である。琴櫻戦は相手の両差し狙いを右おっつけで崩し、右のど輪で押し込まれたものの左からあてがって残すと逆に押し返し、回り込もうとする琴櫻の動きについていき、押し出した。攻防があったが、やはり当たってすぐの右おっつけでもろ差しを許さなかったことが勝因である。琴勝峰戦は押し合いから琴勝峰に二度いなされるも体勢を立て直して押し込み、最後は前に出ながらの引き落としで勝負を付けた。優勝争いもあったと思うが琴勝峰は埼玉栄高校の後輩であり、先輩力士として意地を見せた感じもあり、気持ちのこもった一番だった。一方負けた相撲も熱海富士戦を除けば前に出る相撲が取れており、トータルで見ても自分の相撲を取り切ったと言っていいと思う。

 7月場所は三役復帰となるが、目指すはやはり二桁勝利である。今場所は大の里が凄さを見せつけた一方、霧島は関脇に陥落することが決まり、来場所は貴景勝がカド番ということで付け入り隙は十分ある。ただ大の里を除いても熱海富士、平戸海、王鵬など若手力士が力を付けてきている。よってこれらの力士の成長を踏まえれば大関昇進は決して簡単なことではない。私としては上を目指すというよりも、自身の体と向き合い、その中で自分の相撲を取ることに集中して欲しいと考えている。体は丈夫であり、来場所も元気な相撲が観られそうである。