2023年9月場所個別評価 貴景勝

 今場所はカド番だったが11勝4敗という成績で4場所ぶり4回目の優勝を果たした。黒星スタートも2日目からは連勝。しかし7日目からは連敗し、前半戦は5勝3敗で折り返した。そして後半戦は連勝し、11日目にカド番を脱出すると13日目は優勝争いのトップを走っていた熱海富士を寄り切りで破り、優勝争いでトップに並んだ。しかし14日目は豊昇龍に敗れ、熱海富士が勝ったので再度熱海富士に単独トップを許した。しかし千秋楽は熱海富士が敗れ、自身は大栄翔に勝ったことで二人による優勝決定戦となった。そして決定戦は立ち合いで頭から当たらず、左へ変化しての叩き込みで優勝を決めた。

 まず凄いと思うのはその調整力である。膝を痛めており、夏巡業は途中からの参加となった。そして巡業では取組には参加したものの基礎運動に終始し、相撲を取る稽古は行わなかった。ということでカド番脱出に向けてピンチかと思われた。しかし場所前の稽古総見では二大関と関脇と12番相撲を取って6勝6敗。一気に押し出す相撲もあり、復調気配をうかがわせた。そして調子を上向かせたことが優勝につながったと言っていいと思う。誰にでもできることではない。

 相撲内容に関しては立ち合いでぶちかましてからの突き押し相撲が取れていた。ただ明生戦や正代戦、豊昇龍戦など押し込めていない相撲もあり、もう少しコンスタントに相手を押し込みたい。それでもほぼ全ての相撲で頭からぶちかましており、首の状態は良さそうである。また1月場所で優勝した時よりも前に出ているという意味で内容が良かった。本人も手応えを感じているのではないだろうか。

 ただ優勝決定戦で変化し、優勝したことに関しては綱取りに向けてマイナスになるのは確かである。確かに大関として優勝したかったのは分かるが、協会としては変化してまで大関の立場を守って欲しいとは思っていない。取組後は協会審判部は来場所の明確な綱取りに関しては否定しており、綱取りへのハードルが高くなったと言える。また横綱審議委員会は貴景勝を擁護していたが、決めるのは相撲協会であり、仮に来場所優勝した場合は議論が紛糾しそうな雲行きである。ということで誰もが文句を言わないような結果を残すしかない。

 来場所は綱取りとなるが、過去二回は途中休場しており、その点で今回はどうなるか注目である。ただ突き押しがほとんどであり、手足の短い体型から周囲の横綱昇進への期待は高いとは言えない。結果で跳ね返していくしかない立場である。相撲の取り口と体型はどうにもならないので自分の相撲を取り、白星を重ねていく中で横綱昇進への気運を高めていくことが求められる。