徳勝龍引退について 幕尻優勝 その1

 そして迎えた2020年1月場所は幕尻となる西前頭17枚目だった。2日目に魁聖に敗れるもその後は連勝し、9日目に自己最速の勝ち越しを決めた。翌日以降も白星を伸ばすと14日目は同じく12勝1敗の正代との大一番となった。正代も平幕だったが西前頭4枚目であり、元三役である。また学生横綱のタイトルも獲っており、縁のなかった徳勝龍とは格が違う。年齢は徳勝龍の方が上だが、実績的には挑戦者の立場だった。相撲は立ち合いから徳勝龍が左を差し、右上手を取って組み止めた。しかし正代も左を差して十分の力士である。正代が右からおっつけながら一気に寄ると徳勝龍は土俵際に詰まった。しかし左に回り込んでの突き落としが決まり、これで優勝争いで単独トップに立った。取組後も徳勝龍が気合いの入った表情をしていたのが印象的だった。いつもは淡々と相撲を取っているイメージであり、厳しい表情を見たのは私が知る限りではこの時だけである。また引退会見ではこの正代との取組を思い出の一番として挙げていた。

 千秋楽は貴景勝戦となった。幕内力士がこれより三役、つまり千秋楽の最後の三番で登場するのは大相撲史上初。また幕尻力士が千秋楽結びの一番に登場するのも史上初となった。確かに貴景勝は大関であり、強敵なのは確かだが、前日に朝乃山に敗れて3敗となったので徳勝龍に勝ったとしても決定戦に持ち込めない。その意味では徳勝龍は勝てば優勝であり、今場所の勢いに任せて頑張るだけという状況になった。相撲は貴景勝に押されるも土俵中央で左四つに組み止めた。そして寄って前に出たが貴景勝の捨て身の突き落としを何とかこらえ、最後は寄り切った。取組後はすぐに大粒の涙を流していた。驚きとともに感動的な初優勝となった。

続く