2023年7月場所個別評価 豊昇龍

 今場所は12勝3敗という成績で初優勝を果たすと同時に初の敢闘賞を受賞した。また場所後の番付編成会議を経て大関昇進が決まった。前半戦は3日目に錦木に敗れるも7勝1敗で折り返した。そして後半戦は10日目に琴ノ若、そして12日目は北勝富士に敗れて3敗となり、優勝に向けては少し厳しくなった。しかし14日目に北勝富士が敗れたことで先頭に並んだ。そして千秋楽は本割では伯桜鵬との3敗同士の対決を制すと同時に新入幕の挑戦を退けた。優勝決定戦では落ち着いた内容で北勝富士を押し出しで破り、初優勝を決めた。

 内容に関しては場所全体を見ても他の力士を圧倒していた、とまでは言えない。持ち味である対応力の高い相撲で白星を挙げていた。また先場所以上に押されなくなってきているのは確かである。特に良かったのが7日目の朝乃山戦である。元大関相手にどういう相撲を取るかという意味で注目の一番となった。相撲は立ち合いから朝乃山が右差しを狙うも豊昇龍は左からおっつけてそれを許さない。そして攻防の中で朝乃山が左を差すと同時に豊昇龍が右上手を取った。その後左を差し、朝乃山得意の右四つには組ませない。そして間髪入れずに右から上手投げを打つと朝乃山はバランスを崩しながらも何とか残した。しかし朝乃山が前に出てきたところで豊昇龍は再度右上手投げを打ち、朝乃山を投げ捨てた。豊昇龍が力を付けてきていること、そして朝乃山の大関復帰が簡単ではないことを象徴した一番だった。また周囲へのアピールという意味でも朝乃山に勝ったことに意義がある。

 一方気になったのが10日目の琴ノ若戦である。立ち合いから琴ノ若に二本差され、土俵際まで寄られるも廻しを取って何とかこらえた。しかし再度左上手を取られると最後は押し出された。相撲内容としては完敗である。そして豊昇龍の対琴ノ若戦の連勝が10で止まった。私が言いたいのは相撲内容ではない。琴ノ若が所属する佐渡ヶ嶽部屋付きの元大関琴奨菊の秀ノ山親方によると場所前に「伏線」があったようである。豊昇龍が出稽古に来たようだが、琴ノ若は稽古で感覚がつかめて自信を持ったと言っていたようだ。大関になったから言う訳ではないが、本来なら相手が自信を無くすくらいの強さを示さなければいけないところである。ところが結果として相手に自信を持たせてしまった。これでは出稽古に行かない方がマシである。勿論先を見据えて琴ノ若をライバルとして見ているので出稽古に行ったのだと思うが、今後はその内容が問われるところである。

 そして今後に向けて心強い存在となりそうなのが立浪部屋のフィジカルコーチを務める松原郷士氏である。松原氏はパワーリフティングの元日本王者であり、9年前から立浪部屋での指導を始め、昨年4月からは部屋住み込みのコーチになった。パワーリフティングの一瞬で出す力を100%にする過程は、相撲の立ち合いに類似する部分があるようである。そして同部屋で平幕の明生は数年前から松原コーチの指導を受けているようだが、豊昇龍が本格的にトレーニングを継続し始めたのは最近のことである。それでも体を見ても上半身は分厚くなっており、トレーニングの成果が目に見えて表れている。豊昇龍は元々稽古熱心、研究熱心な力士であり、身体能力が高い。そして相撲とは違った部分で松原コーチが上手くサポートすれば横綱は勿論、叔父の元横綱朝青龍にも近づけるのではないだろうか。

 9月場所は新大関の場所となるが、まずは二桁勝利を挙げ、大関としての役割を果たしたい。夏巡業では霧島に圧倒されており、地力は霧島の方が上のようである。しかし若い上に才能が有り、すぐに横綱というのは厳しいかもしれないが、着実に力を付けていきそうである。焦る必要はないが、大関の地位に満足せず、もう一つ上の地位を目指して欲しい。