2023年5月場所個別評価 霧馬山

 今場所は11勝4敗の好成績を挙げ、3場所連続となる3度目の技能賞を受賞した。そして場所後の臨時理事会と番付編成会議で大関昇進が決定した。また会見では師匠の四股名を受け継ぎ、「霧島」に改名することが明かされた。

 大関獲りの場所であり、協会審判部からは14日目終了時点で10勝というハードルが課された。そして前半戦は6勝2敗で折り返した。3日目に阿炎に敗れて初黒星。7日目は正代に敗れて2敗となった。また正代戦では相手を呼び込むような引き技を見せ、取り直しの末に勝ちはしたものの4日目の錦富士戦は二番ともに左へ変化する相撲を取っていた。気持ちの弱さが垣間見え、後半戦に向けては精神面の立て直しが求められる状況になった。しかし後半戦は連勝し、12日目は貴景勝を寄り切りで破って10勝目を挙げ、大関昇進の目安となる33勝に到達した。14日目は照ノ富士との直接対決だったが寄り切りで敗れ、横綱の優勝を許した。

 内容に関しては対戦相手によって取り口を変え、離れて良し、組んで良しの相撲で白星を挙げていた。これといった型がない力士だが、大関に昇進したことで、師匠の指導で立ち合いからの圧力を強くするという選択は正しかったということになる。そして今場所一番光ったのはスピードと横への動きである。9日目の大栄翔戦は立ち合いから押し込まれるも土俵際で右を差すと左へ動いて突き落とした。翌11日目の若元春戦は押し合いから左を差すと相手得意の左差しは許さず、右からおっつけた。するとおっつけから瞬時に相手の左手を小手に巻き、投げると若元春はたまらず土俵下に転がった。豊昇龍を含め、他の三関脇を上回っているのはやはりスピードの部分である。稽古を重ね、スピードが速くなっているが怪我の話はほとんど聞かず、まだ成長の余地はありそうだ。

 その一方で大関に上がったのでやはり大関の地位を守る相撲も必要になってくる。そうなると今場所以上に四つに組み止める相撲を増やした方が良さそうだ。部屋付きの鶴竜親方が個人的意見と前置きした上で「立ち合いからもっと踏み込み、左を差して右上手を取る形をつくってほしい。それができればもう一つ上の番付も近づく」と語っている。勿論本人の考え方次第だが、私は鶴竜親方の助言に賛成である。またモンゴル出身の先輩大関5人は全員横綱に昇進しており、鶴竜親方に言われずとも本人はその意欲を持っていると思う。またそれだけの能力があるのは確かである。

 7月場所は新大関の場所なのでまずは二桁勝利を挙げ、大関としての役割を果たしたい。また来場所は三関脇が揃って大関獲りであり、大関としてどのように迎え撃つかが興味深い。そして今場所は対戦がなかったが朝乃山と対戦する可能性もある。大関として、大関を目指す力士相手に力強い相撲を取り、簡単には上には上げさせないという内容の相撲を期待したい。