2023年5月場所個別評価 照ノ富士

 今場所は長期休場明けだったが14勝1敗という成績で8度目の優勝を果たすと同時に一人横綱としての責任を全うした。初日は正代に土俵際まで押し込まれたものの掬い投げで破り、白星スタートを切った。その後は順調に白星を重ね、全勝で前半戦を折り返した。そして後半戦は9日目に明生に敗れて初黒星。優勝争いでも明生と朝乃山に並ばれた。しかしその後は再び白星を伸ばし、12日目に再び単独トップに立った。13日目は元大関朝乃山と2年ぶりの対戦となったが小手投げで破り、挑戦を退けた。そして14日目は大関獲りの霧馬山戦であり、勝てば優勝という一番だったが長い相撲の末に寄り切りで破り、千秋楽を待たずして優勝を決めた。千秋楽は貴景勝を押し出しで破り、14勝で場所を終えた。また13日目に平幕下位の朝乃山と対戦したので大栄翔戦は組まれなかった。

 内容に関しては前半戦は膝の様子を見ながら慎重に相撲を取っているといった印象だった。しかし後半戦に入ると膝の状態に自信を持ち、照ノ富士らしい強気の相撲が戻ったという感じである。休場前と違ったのは肩回りの筋肉の盛り上がりである。両膝を痛めており、下半身のトレーニングには限界がある。しかし上半身の強さは照ノ富士の持ち味の一つである。また以前と違って前に出る意識を持っており、抱えて相手の動きを止める相撲が多く見られた。極め出しで3番勝っているのがそれを象徴している。休場前は極めても振りほどかれることが多かったが今場所はそれをほとんど許さなかった。体の大きな横綱相手に動きを止められては対戦相手はどうしようもない。その意味で唯一の黒星を付けた明生は抱え込まれない形で動き回り、上手い相撲を取った。横綱の相撲内容が悪かった訳ではなく、明生に拍手を送りたくなる相撲だった。

 一気に土俵際まで追い込まれたという点では琴ノ若戦と若元春戦は少し危なかった。ただ辛うじて勝ったという内容ではなく、経験を活かし、ゆとりを持って対処しているように見えた。やはり膝の状態が良かったことが一番の要因である。

 7月場所は再び横綱として挑戦を受ける立場だが、土俵を引き締める役割を期待したい。今場所は膝の状態は良かったものの、膝に爆弾を抱えているのは事実であり、膝の状態がポイントとなりそうだ。新大関霧島をはじめ若手力士が力を付けてきており、力量差が詰まってきているのは確かである。本人は優勝回数10回が目標と語っており、あと2回である。今場所のような相撲が取れれば目標達成は問題ないと思うが、膝のことを考えるとできるだけ早い時期に達成したいところだ。しかし今場所優勝したので来場所はリラックスして相撲が取れそうである。私としては新横綱が誕生するまで活躍してほしいというのが願いである。