2023年5月場所を振り返って 照ノ富士に関して 

 2023年5月場所は長期休場明けの横綱照ノ富士が去年の5月場所以来8度目の優勝を果たした。成績は14勝1敗だった。また横綱が3場所連続の全休明けで優勝するのは1989年1月場所の北勝海以来34年ぶりとなった。

 確かに優勝するということは横綱として当然なのかもしれない。しかし途中休場した去年の9月場所の相撲内容は膝が限界であり、引退も近いかと思わせる内容だった。結局9月場所後に両膝の手術をしたわけだが、本人が語っていたように手術したからといって膝の状態が元に戻るということではなく、その中で横綱としての務めを果たせるレベルまで持って行く必要がある。情報の限りでは周囲のサポートは万全だったようだが、それでも決断やトレーニングをするのは自分である。本人が細心の注意を払いながら稽古をし、調整してきた結果である。見事としか言いようがない。

 また両膝だけではない。糖尿病との闘いでもあった。以前大関から序二段まで番付を下げたが、当時を振り返っても膝よりも糖尿病の治療の方が大変だったと語っている。そして去年の9月場所後に手術をした後は膝の負担を軽くするために体重を減らしていた。その後今年の3月場所前は復帰に向けて相撲を取る稽古をしており、本場所に向けて体重を元に戻していた。しかし一気に体重を戻したことで糖尿病が再発した。ということで5月場所に向けては両膝だけでなく、糖尿病にも気を使いながらの稽古となった。

 内なる敵と外なる敵と戦い、その上長期休場のブランクがある。いくら春巡業に参加し、調整が順調とはいっても稽古場と本場所の土俵は別である。ましてや横綱の地位であり、いくら好調でもその役割を果たせなければ意味がない。横審からのプレッシャーはなかったとはいえ、本人にとっては背水の陣で臨んだ場所であり、勝てなかったら引退という覚悟もあったと思う。しかしフタを開けてみれば初日から白星を並べ、千秋楽を待たずして優勝を決めた。状況を見れば奇跡の優勝と言っても過言ではない。長期休場で心が折られても全く不思議ではない。本人は優勝回数10回を強く意識しており、この数字は名横綱の証でもある。同部屋の横綱だった日馬富士は9回で引退しており、自分こそはという気持ちを強く持っているかもしれない。引退後は人工関節になるリスクもあり、無理はしてほしくないが、横綱の地位を守るという姿勢には頭が下がる思いである。