2023年3月場所個別評価 若隆景

 今場所は7勝7敗1休という成績だった。初日から調子が上がらず、5連敗スタートとなった。しかし6日目からは4連勝するなど巻き返し、13日目は琴ノ若を破って7勝目を挙げた。ただ取り直しとなった一番で左から上手投げを打った際に琴ノ若に左から渡しこまれたことで右膝を強打し、琴ノ若の体重が乗っかる形となった。結局物言いが付き、取り直しとなったが執念の相撲で押し出しで破った。しかし右膝は限界だった。勝ち名乗りを受ける時も右膝は曲げられなかった。翌14日目は「右前十字靭帯損傷、右外側半月板損傷、骨挫傷、右外側側副靭帯損傷で3か月程度の療養を要する」との診断書を提出し、休場となった。師匠の荒汐親方によると歩けないくらいの状態であり、思っていた以上の大怪我だった。

 そして場所後の4月上旬に右膝の手術を受けた。師匠によると右膝の靭帯は断裂していたようだ。本人は手術を受けるか悩んでいたみたいだが、師匠の勧めで踏み切った形である。医師からは復帰まで半年から1年以上かかり、長期休場がほぼ確実となった。番付的には3場所連続休場で関取の座を失うことが決定的となる。

 さて内容に関しては場所前に脇腹を痛めたのが原因で調整が遅れたようである。それが原因での5連敗スタートと見ている。6日目からは巻き返したが、体調が戻り、三役の座を1年以上守っている地力の高さがあったからだと思う。しかし怪我をした琴ノ若戦で肉体的にも限界が来たという印象である。先場所も序盤は黒星が先行しており、大関に向けてという意味でも無理を重ねてきたツケが回ってきたような気がする。大怪我をするような相撲を取ってしまったというのも一つのサインである。こういった時の無理は禁物である。おそらく師匠はそういった状況を全て見抜いて手術を勧めたものと私は思っている。

 来場所は小結に陥落となるが、当分はリハビリの日々が続くことになる。情報の限りでは少なくとも9月場所までは全休となり、関取の座を明け渡すこととなりそうだ。しかし手術を受けた以上、地位が問題ではない。師匠が言うようにしっかり治してから出場してほしい。力士生命を優先した師匠の考えは間違っていない。また復帰に向けて頑張って欲しいのは勿論だが、最近は上を目指すために必死に稽古しての日々だったと思われる。折角の機会なので体を休めて欲しいところである。体重は130キロ台の軽量力士であり、負けん気の強い性格もあり、頑張りすぎてきている部分もある。兄の若元春に番付を越され、悔しさはあるかもしれないが、そういった気持ちは一旦脇に置いて治療に専念してほしい。番付が下がることで若元春や幕下で長男の若隆元の気持ちが分かるかもしれない。先のことになってしまうが怪我を完治させ、精神的にも一回り大きくなって土俵に復帰する日を楽しみにして待ちたい。