2023年1月場所個別評価 貴景勝

 今場所は12勝3敗という成績で13場所ぶり3回目の優勝を果たした。前半戦は7勝1敗で折り返した。そして後半戦は11日目から連敗し、優勝に向けて後がなくなった。しかし13日目は星一つ差でリードしていた阿武咲を破り、再びトップに並ぶと千秋楽は琴勝峰との相星決戦を制し、優勝を飾った。

 内容に関しては勿論押し相撲がほとんどだったが小手投げで2番勝っており、千秋楽も掬い投げでの決着だった。一昨年に首を痛めたというのもあると思う。一年くらい前から不利な体勢になっても負けない稽古に取り組んできたみたいだ。しかしすぐに結果が出せるほど甘くはなく、ようやく少しだけ成果が出たと語っていた。四つ相撲に関しては更に進化が期待できそうだ。

 一方の押し相撲に関しては11日目の琴ノ若戦で首を痛めたように首の状態は相変わらず良くなさそうである。以前のように連日ぶちかますような相撲は取れなくなった。そして場所全体を観て感じたことだが、思ったほど相手を押し込めていない。相手の陣地ではなく、土俵中央での攻防が多かった印象がある。できればもう少し押し込む相撲が観たいが、首の状態がそれをさせないのだと思う。また押すことありきではなく、晩年の白鵬のように相手を見ながらさばく相撲に活路を見出しているのかもしれない。

 来場所は引き続き綱取りとなるが、レベルに関係なく優勝することが条件ということでハードルが下がった。またとないチャンスと言っていいと思う。星勘定的には今場所のように1敗くらいで前半戦を乗り切りたい。2敗すると優勝争いのトップに立てない可能性が高く、また平幕の実力者に独走されると苦しくなる。途中で逆転されたものの、今場所のように優勝争いの主導権を握りたい。

 あとは今場所は出場停止処分を受けたが逸ノ城は十両への陥落が濃厚であり、対戦がない。逸ノ城戦で首を痛めて休場に追い込まれている上に苦手意識を持っており、対戦しなくていいのは朗報である。

 来場所も横綱が休場する可能性が高く、一人大関としてのプレッシャーは大変だと思うが、プラスに考えれば横綱と対戦する必要がない。そしてハイレベルな成績を求められている訳でもない。例えば白鵬の全盛期に横綱に昇進した日馬富士、鶴竜、稀勢の里は大変な思いをしている。しかし貴景勝は全勝を求められてもいないし、横綱に勝つことも求められていない。考えようによっては今挙げた3人よりも楽な条件である。横綱になることが自分の夢と語っていたが、夢が近付いているからこそ、あまり多くのものは背負わずに、肩の力を抜いて相撲を取ることを私としては期待したい。