2022年11月場所個別評価 王鵬

 西前頭13枚目だったが10勝5敗の好成績だった。黒星スタートも2日目からは連勝し、9日目に早々と勝ち越しを決めた。しかし11日目は阿炎に敗れ、優勝争いから一歩後退した。そして翌12日目は単独トップの豊昇龍戦だったが叩き込みで破り、再び優勝争いのトップに並んだ。しかし勢いもここまでだった。13日目からは3連敗し、10勝で場所を終えた。また敢闘賞の候補には挙がったものの過半数に満たず、見送りとなった。

 内容に関しては押し相撲に安定感があった。特に左からのハズ押し、つまり相手の脇に手を入れて押す動きが良くなった。ハズ押しができるようになったので相手に引かれても対応できるようになってきた。また押し相撲からのいなしや叩きなどが上手く決まっていた。体が柔らかく、懐が深いのは琴ノ若に似ている。

 特に良かったのが10日目の碧山戦と12日目の豊昇龍戦である。碧山戦は押し相撲同士の対戦となったが立ち合いから左四つに組む展開となった。そして碧山が引いたところで右を差して両差しとなり、両廻しを取って寄り切った。ベテランとはいえ、自身より一回り大きい碧山を正面から寄り切れるあたりはやはり馬力がある。豊昇龍戦は相手は同学年のライバルである。しかし豊昇龍は三役に定着しており、現時点では差がついている。そして私は豊昇龍が勝つものだと思っていた。相撲は互角の立ち合いのように見えたが少しだけ王鵬のぶちかましが勝り、豊昇龍の上体が起きた。そして豊昇龍が慌てて前に出たところを王鵬は左へ回り込んで叩き、豊昇龍はたまらず転がった。本人が言うには最高の立ち合いができたようだ。それだからこそ豊昇龍が少し後退したということである。その後の流れは間隔さえ空けば王鵬の体の柔らかさと懐の深さが活きてくる。また勝った後、してやったりといった表情で口元が少し緩んでいたのが印象的だった。

 また三賞受賞を逃したのは確かに本人は悔しいかもしれない。しかし今場所は豊昇龍戦を含めて終盤の4日間は番付上位の力士と対戦することができた。そして豊昇龍に勝ち、爪跡は残した。残りの3日は負けたものの、三賞受賞以上に貴重な経験を積むことができた。この経験を次に活かしたい。

 1月場所は西前頭8枚目となった。5枚しか上がっていないが、平幕上位で大負けしている力士が少ないのでこれは仕方がない。それよりも与えられた番付で勝ち越しではなく、二桁を狙いたい。父の元貴闘力が言うように才能がまだまだ活かせていない。持て余している部分もあるので稽古を積み、体全体を使えるようになりたい。やはり一番の魅力は馬力である。そしてその馬力を試すために役力士と対戦できる地位まで番付を上げて欲しい。今の地位では少し遠慮して立ち合いで当たっているように私には見える。玉鷲のように毎日思い切ってぶちかます相撲を観たいと心から思っている。