2022年11月場所個別評価 阿炎

 今場所は西前頭9枚目で休場明けとなったが12勝3敗という成績で初優勝を果たすと同時に4回目の敢闘賞を受賞した。前半戦は7勝1敗で折り返した。5場所ぶりの平幕中位の番付なので当然と言えば当然である。しかし9日目から連敗して3敗となり、優勝争いから大きく後退した。それでも11日目からは連勝し、トップを追走した。そして14日目は3敗同士で豊昇龍戦だったが引き落としで破り、優勝争いに残った。千秋楽は勝てば優勝の高安との一番だったが高安の攻めをこらえ、反撃すると最後は突き倒し、決定戦に持ち込んだ。決定戦は最初は高安との再戦だったが、相手の左差しを読んだ上での左変化で叩き込んだ。相手の動きを見切っていたようにも見えた。勝負師である。次の貴景勝戦は阿炎が、というよりも貴景勝が土俵下で変化を見せられたので何もできなくなってしまった。相撲は貴景勝が立ち合いから引いたところをそのまま押し出した。高安が首を痛めたこともあるが、相撲を取る前から勝負が付いていた感じがする。しかし千秋楽は三番取って三番とも勝っており、文句を言う人はいないと思う。本人にとっても嬉しい初優勝である。

 内容に関してはもろ手突きとのど輪押しの相撲が光った。そして前に出る圧力があったので引き技や左右へのいなしがよく決まっていた。その一方で負けた3番はいずれも腰から崩れて負けており、いかにも休場明けといった負け方だった。休場明けで体の動きが鈍くなるのは仕方がない。しかし10日目に3敗となった時点で優勝は厳しいと私は見ていた。師匠の錣山親方も「リハビリのつもりでやれ」と言っており、勝ち負けは気にしていなかったと思う。しかし本人は貪欲に優勝を狙っていた感じがする。理由は二つある。一つ目は優勝を逃した悔しさである。一昨年の11月場所と去年の1月場所はその可能性があったがいずれも逃している。優勝争いをしたことで優勝したいという気持ちがより強くなったのではないか。そしてもう一つは師匠への恩返しである。特に新型コロナウイルス対応ガイドライン違反で三場所出場停止処分を受けており、幕下から出直した経緯がある。師匠に迷惑をかけているのは本人も自覚しており、師匠が果たせなかった優勝という結果で師匠に喜んで欲しいという気持ちがあったのだと思う。結果論だが3敗になっても諦めなかったのが優勝できた要因だと私は見ている。

 1月場所は東前頭3枚目となったが早くも気持ちを切り替えているようだ。やはり優勝した以上、次は三役復帰、その次は三役での二桁勝利である。手術した肘の状態次第というのはあるが、体格やスケールは師匠を上回っており、大関を目指してほしいところだ。優勝という結果に満足せず、更なる高みを目指したい。年齢は28歳であり、上を目指すためには大事な一年となりそうだ。